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書籍レビュー|ZARA、ユニクロ圧勝の秘密を明かす 生き残るアパレル死ぬアパレル
私自身もアパレルに関する業界にいますが、この業界が機能不全を起こしていることは痛感します。生産・販売の両方に問題があるし、それは誰しもが感じていることでしょう。本著は、アパレルの生産と販売の両面から話が進められていて、面白い内容となっています。特に生産については、各メーカーが商社に頼っている実態についても触れられており、納得する部分も多い内容です。
それにしても、なかなか変わらないこの業界…。ここでも書かれているように、主因の一つに実情を無視した(策のない)売上計画を組む経営層、という要因はあるように感じます。中長期的先を見た場合、成長路線は数量増加による売り上げ拡大ではないだろう…とは痛切に感じるところです。
■アパレル業界の現場
色々な本が色々な表現でアパレル業界の現状を憂いていますが、この本では下記のような表現をされています。
この20年で衣料品の平均単価が40%下がった一方、市場への投入点数は倍になり、市場は30%以上の供給過多と言われる。
9-10兆円のマーケット、20%がファストリ、同じく20%が他の上位10社、残り60%を2万社の中小。
■生産の観点から
数多あるアパレルメーカーですが、「メーカー」とはいえ商社を介している企業が大半です。本著では、商社がもっと存在感を強め、メーカー間を取りまとめ、コストメリットを産む生産背景を整えるべき、と説いています。今は、ユニクロのコストメリットが圧倒的に強く、他社が追随出来ない状態。モノづくりのコスト差を埋め、付加価値で勝負出来る生産背景を整えるべきだ、と。これはアパレル独特な構造なようにも思います。「メーカー」とは名ばかりで、生産を取り仕切るのは商社という構造。なのに、メーカー主導で様々な書式の仕様書が作られ、品質基準や縫製仕様もメーカー様々。確かに効率は悪いです。もちろん、メーカーごとの強みがあるので、拘りたい箇所があればリクエスト内容に応じてアップチャージで対応するなど、商社主導でもメーカーの意図を活かす方法は色々出来るはずです。
そして、直貿(直接貿易…商社を介さずに直接工場とやりとりすること)の是非についても。私も以前いた会社で、商社中心から直貿に切り替えたタイミングで生産関係の仕事をしていましたが、確かに直貿にしてみたのの品質管理や生産管理が大変で、コストはそんなに変わらず、直貿の恩恵を感じにくかったことを覚えています。良い経験にはなりましたが。
■販売の観点から
本著にある下記の一説が原因の一つだと感じます。市場環境に目を背け、現実的な策もなく売上を追い求める姿がこの環境を作っているんじゃないだろうか。
アパレル産業が崩壊するのは必然
「縮小する市場の中では、売上を追いかけてはならない。利益率を上げよ。まずは、在庫の最適化からはじめよ」とあれほど警鐘を鳴らしても、営業会議でトップや役員から「昨対比を上回る売上(利益ではない)を上げろ!」とハッパをかけられた挙げ句、売れもしない余剰在庫を積み増し、減価率をどんどん引き上げる。どの企業にいたっても、利益率が下がっている理由は恐ろしいほど似ている。」
また、ライトオフについても語られています。
ライトオフとは「在庫の損金処理」という意味で、鮮度を失い、売れる状態では無くなった在庫はその価値を下げ、その分を費用として処理(評価減)することを指します。勝っているアパレルは、値引きをせずにライトオフ(在庫の損金処理)までの期間が長い、と書かれています。ただ、評価減は会計ルールで決まっているようにも思うので、企業が自由に「ウチはセールしないから評価減しません」と出来るのかは分かりませんが…。また、トレンドに左右されるアパレルはどうしたって鮮度が重要になってきます。トレンド性が高いものを3年も5年もかけては売れないので、トレンド重視のメーカーに未来はない、ということ!?とは思うのですが…。
■アリストテレスの言葉
下記は参考になる言葉で納得でした。
人に行動を起こさせるためには、エトス(信頼)、パトス(共感)、ロゴス(論理)の順で接しなければならない。アパレルビジネスの場合、信頼はブランド、共感はVMD、論理は接客の順となる。
アパレル業界に身を置く方は一度読んでみるとよい内容の一冊でした。
参謀 川勝 洋輔