コラム

参謀 青木 永一

経営者にとって経営の知識がないことは、倒産のための計画と呼ぶに等しい

「経営学はもはや古い」「MBAホルダーは仕事が出来ない」。

 

このような発言をされるセミナー講師やコンサルタントの方が少なくありません。何かトラウマとなるような出来事があったのか、実際にそのような人が身近に居られるのかと想像するものの、あくまでも想像の域を超えません。

確かにMBAホルダーといえどもコミュニケーション能力に疑問を持たざるを得ない方や、得た知識に対して魔法の杖を持ったかのように過信し、謙虚さを失った一般的に「傲慢」と呼ばれる類に成り下る者も一定数は存在するでしょう。ただし、一括りに全てを「使えない」と断言してしまうことも言葉が足らない残念な発言ではないでしょうか。

 

 

経営学は 現場との相互補完で成長の確度を向上させるもの

 

程度の問題はありますが、失敗が許される心理的安全性が担保された場では、自分の持つ知識を活かしてみたいという挑戦が自然発生的に生まれ、現場感にあわせて改善が行われ、不足する知識や経験を他者と補い合うことで成果が徐々に生まれます。そして、周囲から一連の行動と成果が認められることによって自分の存在意義を強く自覚し、自己効力感が徐々に醸成される。

 

このように組織内部に醸成されていく循環的な流れを「環境」と呼ぶのではないでしょうか。

 

MBAホルダーが「使えない」とするならば、その者だけに責任があるとは思えません。環境を整備出来ていない育成者側にも責任はあるのではないかと感じざるを得ません。ごくまれに、謙虚さを失った経営者が自らの権威を保つために、知識保持者を辛辣な言葉や態度で陥れるような場面に遭遇したこともあります。

 

経営学は、直線的かつ即効性のある成功を約束するものではなく、改善のための糸口を俯瞰的に、可能なかぎり網羅性をもった視野で捉え、明日への成長をより確かなものに近づけるためにあるのです。

 

この点を誤解した発言が多いと感じます。

 

「理屈」と「現場」はお互いの不足を補完しあう関係であり、解決すべき課題に応じて適宜調合の程度を変えて対応していくという文脈において、いわば調味料と言い換えることが出来ます。理屈と現場(経験)のどちらか一方だけに偏って乗り切れるほど経営の実態は甘くありません。

経営の世界は、良心が許す許さないを別にして競合を出し抜かなければ勝てない世界です。そのための条件はいくつもありますが、知識や経験を基にした共通言語によって社内のコミュニケーションが効率的になれば、意思の疎通は早くなり、そうでない場合と比較して負けない仕組みとなることでしょう。

 

また、ビジネスにはつきものの交渉ごとについても、相手側の思惑を考察し、双方にとっての利益を考察するための交渉術も必要です。

 

交渉といえば相手を負かすためのものと思われる方も多いと思いますが、本来はそのような安っぽいものではなく、両者が共に少しの不満を持つ地点を模索するものという点は押さえておきたいところです。

 

持っている知識を使うか使わないかは、その時々の判断で勝手にすれば良いことです。ただし、知ったうえで「使わない」ことと、知らないから「使えない」というものは相手から見て表面的な態度や対応は似ていますが、救いようのない次元の違いがあるということは理解していただけるはずです。

 

 

「小よく大を制す」は、精神論ではない

 

経営学だけに限らず、企業にとって本来有用なはずの知識を持っている人を有用して頂きたいと思います。

知識は強みの源泉となり、擦り切れることはありません。経験が積み重なり、不足を補うための補完を重ね続ける限り、その知識はさらにパワーアップするものです。そうでない場合は使う側にマネジメント能力がないのか、知識保持者側に適応能力がないかでしょう。

 

小規模企業経営だけに限りませんが、学び続けることは競争力の源泉に重要な「見えざる資産」を築くことになります。

 

「小よく大を制す」に必要な条件は、知識と現場の相互補完、そして社内環境を素早く柔軟に整備する機動力です。

いずれも小規模企業こその魅力であり、強みではないでしょうか。硬直化、肥大化した大企業では決してそうはいきません。

 

 

破産に追い込まれた経営者がこんなことを言っていたことを思い出します。

「やはり、経営するうえにおいて経営の知識がないことは罪や。社員たちに悪いことしたな・・・」と。

 

謙虚というものは、窮地に立たされ孤独に晒(さら)されることでようやく気付くものなのかも知れません。

 

学びの投資をためらうことは、倒産の計画に積極的であることだと考えています。

 

「経営学は、小規模企業にこそ必要だ」

私たち参謀リンクスの一貫した主張です。

このコラムの著者:

参謀青木 永一

参謀の特長
ベルロジック株式会社 代表取締役 経営学修士(MBA)メンバーの中でも、異色の経歴を持つ。 前職は、事業者向け専門の「ナニワの金融屋」であり、30代後半までの15年間の経験の中で、約500社を超える倒産と間近に関わってきた。 自称 マネジメント数学研究家(暇さえあれば、ビジネスと数学の交わり方をユーモアたっぷりに伝える工夫をしている)。