- 参謀の特長
- ベルロジック株式会社 代表取締役 経営学修士(MBA)メンバーの中でも、異色の経歴を持つ。 前職は、事業者向け専門の「ナニワの金融屋」であり、30代後半までの15年間の経験の中で、約500社を超える倒産と間近に関わってきた。 自称 マネジメント数学研究家(暇さえあれば、ビジネスと数学の交わり方をユーモアたっぷりに伝える工夫をしている)。
コラム
参謀 青木 永一
「知らなかった」では済まされない! 情弱中小企業の労務に関する不都合な真実
2019年に政府が働き方改革を掲げてから、矢継ぎ早に様々な政策が打ち出され、関連する法律も現在進行形で改正されているようです。
日々の業務でお忙しい経営者の皆さんは、法律の動向を追いかける時間はなかなかないと思いますが、見落としたり対応を誤ると今後の事業継続に大きなリスクを生じさせる可能性もあるので、是非ともキャッチアップを怠らないようお願いします。
とうことで、今回は労務に関する法律とそのリスクについてご紹介します。
目次
“パワハラ防止法”によるリスク
2020年6月に「改正労働施策総合推進法」、いわゆる“パワハラ防止法”が施行されました。
努力義務とされてきた中小企業においても、2022年4月から義務化されています。
主な内容は、
- 就業規則への禁止規定の盛り込み
- 相談体制の整備
- プライバシー保護
- 処分方針の明確化
- 再発防止策
です。
詳しい内容については弁護士や社労士の先生に聞いていただくとして、ここで特に留意していただきたいのは、「防止対策」の義務化という点です。
この法律には罰則規定はありませんが、行政指導で改善されない場合企業名が公表されます。
当然、コトが起こってからでは遅く、ブラック企業として認定されれば、ただでさえ大変な採用活動は壊滅的なダメージを受けることになるでしょう。
この法律は既に施行済のため、対応がまだの中小企業においては取り急ぎ対応を完了していただく必要があります。
「はぁ?転職??そんなこと聞いてませんけど!」 労基法改正案に備えてますか?
厚生労働省では現在(2022年11月時点)、労働基準法の改正を検討しています。
企業が労働者に対し、異動の可能性がある範囲や業務内容を事前に明示するよう義務づける、というものです。
現行、労働契約時に作成する「労働条件通知書」に記載する必要があるのは「〇〇支店」や「法人営業」といった最初の勤務条件を記していれば、その後は会社からの変更が生じたとしても問題はありません。
しかし、改正案では今後生じうる「変更の範囲」を併せて明記する必要に迫られそうです。
たとえば、「〇〇支店勤務後は大阪府内に転勤する可能性がある」、「最初は法人営業だが個人向けの営業に配置する可能性がある」といった具合です。
そうなると、これまでのように会社から辞令を伝えた際に、「そんなことは採用時に聞いていません」「無理です、応じられません」といった主張を聞く時代も近いのかもしれません。
そもそも、きちんと採用時に勤務地や業務内容の説明を丁寧に行っている企業では、トラブルが生じる割合は大きく下がるとのデータもあるようです。
時限爆弾「未払い残業代の請求権」 その殺傷力
2020年4月に民法が改正され、賃金や残業代を請求する権利の時効期限が2年から3年へと変更となりました。ただ、5年への延長も引き続き検討されており、動向を注視したいところです。
未払い残業代について、特に中小企業は曖昧に済ませているところも多いかと思いますが、時間が経ってから思わぬところで「爆発」し、事業に大ダメージを与える可能性は否定できません。
というのも、近年、事業承継や規模拡大、多角化の手段としてM&Aが中小企業にとって身近になっていることが大きく関係してきます。
これは、会社や事業を売買する際に従業員に対して未払い残業代がある場合には、相手側の請求権が時効期限を迎えるまではいつ爆発するかわからない、水面下に潜むリスクとして残り続けるからです。
買収した会社の従業員や元従業員に対する未払い残業代について、遡っての支払い義務が生じたり、売却した事業で同様のことが起これば、その責任は回避できません。
時効を迎えていない未払い残業代は『簿外債務』として認識するのが賢明です。そして、3年の時効期限がさらに5年に延長されれば、その債務は単純に2年分も膨張することになります。
SNSなどで、労働環境などがネタとなってバズる時代です。そのような情報に触発された従業員たちが合同労組・ユニオンなどへ駆け込み、証拠を積み上げ、権利の主張だと辛辣な言葉で発信する可能性は大いにあり得ますし、炎上が巻き起これば収拾のつかない事態になってしまいます。
今後の事業の安定的な運営には、労務に関する情報のキャッチアップが欠かせません。
リスク回避のため、そして採用において選ばれるためにも、法律がどのように変わりそうかなどの動向は理解しておいて損はないと思います。
参謀学研究員 青木 永一