- 参謀の特長
- ねこのて合同会社 代表 資産運用のアドバイスを柱とするファイナンシャルプランナー、保険代理店、金融商品仲介業
コラム
参謀 横山 研太郎
数字を通して見えること 数字にとらわれて見えないこと
「経営者は数字を見ることも大切」
ほとんどの経営者が、このことを理解しているでしょう。しかし、数字を見て会社の方針を決めていったとしても、必ずうまくいく保証はありません。数字を見て状況を把握する精度を高めていくことで、よりよい経営方針を打ち出していくことができるはずです。
目次
客観的なデータで判断することは経営に不可欠
数字はデータを客観的に表示するツールであり、冷静に、ときには冷酷に現状を見せてくれるものです。
そのため、決算書や営業成績、人事評価など、会社経営のさまざまな場面で数字を使った分析・評価を行います。
しかし、客観的な数値データを使って判断したからといって、適切な経営判断ができるわけではありません。「数字の裏側」を見ることができていないと、数字から誤った判断を下してしまうことがあるのです。
数字で評価することには限界がある
営業成績を例にして、数字とその裏側にあるものを見る重要性を考えてみましょう。
1か月の売上が2,000万円で、粗利益が500万円、営業利益が100万円という部署が2つ(A営業所・B営業所)ありました。
この2つの部署を評価するとき、これだけの情報で「同じ」とするのではなく、各部署の人員数なども一緒に考えるはずです。
1人あたりの売上・利益で見るとどうなるでしょうか。
A営業所は5人体制、B営業所4人体制だったとします。
これを見ると、同じ売上・利益であっても、B営業所の方が効率よく働くことができていると評価することができます。
けれど、B営業所は人数が少ないのに、1人あたりの販管費(粗利益と営業利益の差額)が100万円かかっています。もしかすると、残業が多くなっているのかもしれません。
評価方法を時間あたりの売上・利益にまで落とし込むことができれば、「業務効率」を基準に評価をすることができます。
しかし、突き詰めて考えれば、時間あたりの数値で評価するのも完全なものとは言えないかもしれません。つまり、数値で評価するのにも限界があり、自分で「この数値で考える」と判断をしなければならないのです。
この数値を基準にして評価するとしても、その評価方法が完全なものでないならば、活用するときには、「数字にとらわれると見えないことがある」と理解しておきましょう。
数字の裏側まで見て、いろいろな可能性を想定する
では、営業所の成績を例に、数字の裏側を見てみましょう。
業績の評価をする基準は、従業員も知っていることです。決して良い方法とは言えませんが、評価基準を明確に伝えようとしていなかったとしても、自然と伝わっていくものです。
もし、従業員が「労働時間1時間あたりの売上・利益で評価されている」と知ったら、どんな行動をとるでしょうか。
同じ売上・利益であっても、労働時間が短い方が評価されるとなった場合、「どうやって労働時間を短く見せるか」に注力してしまうリスクがあります。
早く仕事を終わらせようと効率化を図るのではなく、家に仕事を持ち帰ったり、朝早くに出勤して勤務時間とわからないように仕事をしたりするかもしれません。
人員を増やすと、営業所の労働時間が一気に増えてしまうため、評価が悪くなることを嫌って、かたくなに人員は充分に足りていると主張して、業績を上げるのとは逆の行動をとってしまう可能性もあるでしょう。
その他にも、最悪のケースでは、高い評価を得ようと、上司が部下に、残業する場合でもタイムカードを定時に押させようとするかもしれません。サービス残業を強制していると認識され、発覚すると、大きな問題に発展するかもしれません。
適切な行動を促す仕組みを整えることが大切
このように、数字だけに頼った制度には限界があるため、そこまで想定した仕組みを整えておくことが大切です。
隠れて残業しようとする可能性があるならば、定時前後の状況をときどき観察するなどして対応することができるでしょう。
また、残業していれば使われるかもしれない電話の通話記録を確認してみるなどの方法で、数字と実態が乖離しているかを確認することもできます。
もし、経営者が望む姿とは異なる「誤ったあるべき姿」を従業員が追及してしまっている場合、そもそもの評価方法や基準となる数値がおかしいのかもしれません。
経営者が従業員に対して「こうあって欲しい」と望む姿を実現するには、どのような働き方になっているのかを考え、制度や仕組みを再構築することも考えてみることも必要です。
まとめ
数字は客観的なもので、感情の入り込む余地はなかなかなく、冷静な判断を下すことができるツールです。
しかし一方で、感情を無視して数字を取り扱ってしまうと、数字の裏にある従業員の行動・心情を理解しない判断につながりかねません。
そこまで考えて数字と向き合い、活用することができれば、心のこもった社内ルール・評価制度を作るきっかけとすることができるでしょう。