コラム

参謀 青木 永一

中国の歴史から学び考える これからの「店舗経営」の選択肢

今般のコロナ禍に至る以前から、店舗経営の効率性について思案していることがあります。

 

業種によって扱い方には工夫が必要なのですが、現代風にアレンジした「呉越同舟(ごえつどうしゅう)」と、「作り手を増やす」というものです。

 

今回は、時勢的にも店舗経営のあり方を「呉越同舟」と絡めて共に考えたいと思います。

 

呉越同舟の由来

 

「呉越同舟」は、歴史好きの経営者にとっては既知の話だと思いますが、由来は中国の春秋時代(紀元前770年前後から紀元前400年頃までの時代)にまで遡り、出典は孫氏の兵法書に記された中国の故事成語です。

 

呉と越のような仇(かたき)同士が、偶然にも同じ船に乗り合わせ、突然の水難で危機的状況に直面した際、手を取り合い協力しあった姿を見た船頭が「呉と越がいつまでも仲睦まじくあれば、どれだけ良いことだろうか」と呟いたことが所以(ゆえん)とされています。

 

「争っている場合ではないはず、今この時ばかりは目的のもと、呉越同舟で協力しあいましょう」などと使われたりします。

 

経営の選択肢としての呉越同舟

 

企業にとっての広義の目的は、社会をより良くすることであると思いますが、狭義の目的は、自社の製品やサービスがより多くの顧客に受け入れられ、自社の業績が盤石なものになることではないでしょうか。

 

取り扱う製品やサービスが異なる業種の場合、普通ならば別々の場所でそれぞれが店舗を構え、日々の営業をすることでしょう。

 

例えば、美容室とスイーツ店は店舗が隣り合っていることはあったとしても、同じ店舗におさまっていることはあまりないと思います。ですが、対象とする顧客の属性が同じである場合、顧客の心理と行動の動線(導線)をよく考えてみれば、異なる業種であったとしても両店舗が一つの店舗におさまっていることは、考えようによっては理想的な姿かも知れません。

 

顧客になりきって想像してみてください。

 

髪を整え終えた後、気分はスッキリと明るくなっていることでしょう。そして、お会計の際にはお財布を取り出すことから、自然と財布の紐が緩むことは想像しやすいことでしょう。

 

そのときに、目の前のショーケースに美味しそうなプリンやチーズケーキが並んでいたらスッキリと明るくなった気分も手伝い、つい買ってしまう心理と行動の物語が描けないでしょうか。

 

また逆に、美容室には来店したことがない顧客が、ケーキを目当てに来店した場合にはいつもと違う美容室を知るきっかけにもなり、次の髪の毛のお手入れの際には有力な選択肢になることも物語として十分に予想できます。これは実現性の薄い話として一蹴するのではなく、対象となり得る顧客に対して自社の製品やサービスがより効果的に認知されるためのひとつの思考トレーニングとして捉えてください。

 

店舗内に物理的なスペースをどのように確保するかなどの具体的な問題についても、全部を共有だけが選択肢ではなく、部分的なものとしても考えられるでしょう。

 

お伝えしたいことは、店舗スペースだけではなく、人材なども含めた経営資源の一部を他の業種と共有することができれば、結果として顧客の心理と行動に対して触れられやすく、また経営者側にとっては合理的に経営資源の効率改善が図れ、自社を成長させる確度は高まるのではないかという提案です。

 

「呉越同舟(ごえつどうしゅう)」の本来の意味するところと比べてみても、当たらずといえども遠からずではないでしょうか。

 

 

顧客の行動が変われば、経営の在り方も変わるのは自然なこと

 

新型コロナウイルスによる負の影響を強く受けた事業のこれからの立て直しは、もはや「再生」ではなく、新たな「起業」と呼ぶに等しいものです。また、特に店舗経営は家賃や正社員の人件費に代表される固定費の割合が、事業の継続性に大きく影響を及ぼすことは、新聞やニュースなどで大きくクローズアップされました。

 

この点は、今後も引き続き考えなければならない課題でしょう。

 

少なくとも小売店舗の経営環境は、程度の問題はありますが、Beforeコロナの頃のようにはもう戻らない、仮に戻るとしても、相当な時間が必要でしょう。

 

なぜそのように言えるのか。

 

おそらく、顧客が3密(密閉、密集、密室)を避けようとする意識は、今後も引き続き維持されるからです。さらには、夏場の外出時のマスクは口元が蒸れやすいことから、女性の場合は化粧直しの面倒さを考えると、寄り道での購買行動を避けてしまうことも少なくないでしょう。

 

また、業種や企業規模による違いはありますが、在宅勤務についても一部では今後も引き続き継続されることは確かなことです。

 

このような大きな環境変化による社会的な雰囲気と流れの中では、物理的に人と人との距離が取られ、それが消費行動にも大きく影響するものと考えられます。たとえ、店舗側が通常営業に戻しても、店舗前の行列は分散化させ、店舗内の密集は避けなければならないことから、顧客(席)の間引きが必要になります。

 

となれば、必然的にこれまで定着していた顧客が、他店へと流れてしまうことは十分に考えられることでしょう。

 

顧客側にとっても、これまでの慣性的な思考と行動による趣味趣向が止められたことによって、新しい価値を発見しようとすれば、必然的に求める情報の質も変わるでしょう。

 

経営資源が脆弱な小規模店舗においては、これまでの慣行や常識にとらわれず「呉越同舟」を絡めた、より理想的な「顧客起点」で、経営の効率的な改善を狙った新しいスタイルをデザインすることに挑戦していただきたいと願います。

 

さいごに

 

事実として変化が起こっていることは何か。

予測としてこれから変化しそうなことは何か。

普遍的なものとして変化しないことは何か。

 

環境変化を冷静に捉え、脅威としてではなく、機会として考えたいものです。

 

環境変化に対応した経営の軌道修正が問われています。

コロナ禍が、より良い違いを生み出すきっかけとなることを願っています。

 

参謀 青木 永一

 

 

このコラムの著者:

参謀青木 永一

参謀の特長
ベルロジック株式会社 代表取締役 経営学修士(MBA)メンバーの中でも、異色の経歴を持つ。 前職は、事業者向け専門の「ナニワの金融屋」であり、30代後半までの15年間の経験の中で、約500社を超える倒産と間近に関わってきた。 自称 マネジメント数学研究家(暇さえあれば、ビジネスと数学の交わり方をユーモアたっぷりに伝える工夫をしている)。