コラム

参謀 横山 研太郎

社内のコミュニケーションでも財務体質は改善できる

コロナウイルス問題が長期化し、中小企業の体力にも深刻な影響が出ています。事業が立ち行かなくなることを避けるには、キャッシュの確保が重要です。しかし、金融機関からの融資で、会社の本質的な財務体質が強くなるわけではありません。

緊急事態でも強い、体力のある会社を作るためには、社内のコミュニケーションも大切です。

 

 

会社が倒産する原因は資金ショート

 

みなさん、よくご存じだとは思いますが、資金ショートして取引先への支払いや金融機関への返済等ができなくなることで、会社は信用を失い、事業を継続させることができなくなります。

 

逆に言えば、赤字であっても、支払いさえしっかりとできていれば会社が倒産することはありません。

 

 

改善すべき指標は「損益」ではなく「キャッシュフロー」

 

上記の通り、支払いが滞りなくできているかがカギなのですから、最も重要なポイントが損益でないことは明らかです。

見るべきは、会社の現預金の出入りを表す「キャッシュフロー」です。

 

キャッシュフローは、お金の調達方法・使い道にあわせて3つに分解されます。

 

  1. 営業キャッシュフロー
  2. 財務キャッシュフロー
  3. 投資キャッシュフロー

 

1.営業キャッシュフローは、営業活動による現預金の出入りを表します。この数値が安定してプラスになっている会社は、キャッシュの創出能力が高く、金融機関からの評価も高くなります。

 

2.財務キャッシュフローは、財務活動による現預金の出入りで、主に金融機関からの借入や返済が含まれます。借入をすれば大きくプラスになり、返済過程ではマイナスが続きます。

 

3.投資キャッシュフローは、投資活動による現預金の出入りで、固定資産や機械装置などを購入した場合の支出が含まれます。購入した場合にはマイナス、売却した場合にはプラスとなります。

 

この中で、会社の財務体質を強くするために大切なのが、「営業キャッシュフロー」です。同じくらいの売上でも、営業キャッシュフローが大きい会社は、そうでない会社よりも現預金が確保しやすく、危機に強い体質だといえます。

 

 

キャッシュフローを改善する方法

 

それぞれのキャッシュフローを改善する方法は次のような例がありますが、緊急事態に取るべき策かどうかという問題があります。

 

1.営業キャッシュフロー

・コスト削減

・売掛金の早期回収・買掛金の支払日後ろ倒し

できれば苦労はありませんが、売掛金を早期回収するために金利や割引コストが

かかることがあります。買掛金の支払いを遅らせる要求は、信用不安がささやかれる

リスクもあります。

 

2.財務キャッシュフロー

・借入をする・返済を猶予してもらう

これがとても難しいことは、みなさんもよくご承知だと思います。

 

3.投資キャッシュフロー

・投資計画の凍結

即効性はありますが、機械装置等の投資を控えることで生産性が落ちる可能性が

あることも留意しましょう。

・遊休資産の売却

不動産等の売却をすることも可能ですが、買い手がいないと現金化できません。

現金化までの時間がかかるうえ、買い手が少ない場合には、とても安い金額で

手放さないといけない可能性もあります。

 

このように見てみると、キャッシュフローを改善させるのはそんなに簡単ではないようにも思えます。他社との交渉などを必要とするものが多く、信用不安がささやかれるリスクもあります。

 

しかし、社内の努力でキャッシュフローを改善する方法もあります。

 

 

現場が「利益改善」に向いてしまうのを防ぐことが大切

 

一般的に、「利益が多い会社は優良企業」という厳密に言えば正確ではない認識があります。

実際、経営や経理にかかわるメンバーでない場合、管理職も平社員も資金 ショートという「倒産に至るメカニズム」を理解していません。いくら利益を出していても、支払いに窮して信用を失えば事業が継続できないことをわかっていないのです。

 

そんな従業員が緊急事態に取る行動は、「利益額を増やそう」です。

利益 を増やすため、また原価率を下げるために、「仕入ロットを増やして、仕入単価を下げ」ようとします。これは、資金繰りの側面から考えると大問題です。

仕入先も「利益につながる売上を増やそう」と考えるため、担当者同士の利害が一致し、現預金確保が重要なときに限って、なかなか売れない大量の仕入れが発生してしまいます。

他にも、不景気で安くなっているからと、会社の備品や器具などを大量に購入してしまうケースもあり得ます。

 

このようなケースが、会社の中で起きているかもしれません。

「利益額を増やすこと」に気が向いてしまう現場の従業員が、どんな「資金繰り上よくないこと」をしてしまうかを想定し、事前にやるべきこと・やらないで欲しいことを伝えておくことが重要です。

 

 

売上が減少する事態には、それに合わせたお金の使い方があり、経営者の望まない判断が 行われないようにする必要があります。

いくら経営者が資金調達に奔走しても、今流出しなくてもよいお金を出ていかないようにしなければ本末転倒です。そうするために必要なのは、金融機関との交渉力でもなく、財務のテクニックでもありません。現場とのコミュニケーションで、どういった行動が必要かの意思統一をしておくことが大切です。

このコラムの著者:

参謀横山 研太郎

参謀の特長
ねこのて合同会社 代表 資産運用のアドバイスを柱とするファイナンシャルプランナー、保険代理店、金融商品仲介業