コラム

参謀 浅井 貴之

研修効果を職場に活かす3つの考え方

はじめに

 

人材育成に関するデータに【70:20:10の法則】というものがあります。これは、米国の調査機関が経営層のリーダーシップ開発に対して「何から学んだのか」を分析した数値です。

  • 70%:業務そのものの経験から。
  • 20%:上司やメンターによる指導から。
  • 10%:研修や読書などで得た情報から。

あくまでも「経営層のリーダーシップ開発」に関する調査のため、すべての教育にあてはまるわけではありませんが、この結果は「結局は仕事で学ぶのが一番」と証明されたとも捉えられ、人材育成に携わる人たちに少なくないインパクトを与えました。

この結果を知っているマネージャーの中には、部下を研修に送り出すことを渋る根拠にする人さえいるほどです。しかし、私の経験上、研修は普段の仕事では得られない知見を学べる貴重な機会です。実際に、研修を受けたことをきっかけに、とても成長された人方を何人も見てきました。

 

上の法則では研修から得られる学びは少ないようにみえるのですが、実は研修の効果がうまく現れるためには押さえておくべき重要なポイントがあるのです。

今回は経営者の視点からみて、研修効果の定義を押さえつつ、実際に効果を上げる方法について考えます。

 

成功

 

 

研修の効果とは

 

そもそも研修の効果はどのように計るべきでしょうか。立教大の中原淳教授は著書『研修開発入門:会社で教える、競争優位をつくる』において「組織のかかげる目標のために、仕事現場を離れた場所で、メンバーの学習を組織化し、個人の行動変化・現場の変化を導くこと」と定義しています。

 

つまり、研修は「個人の行動が変わったか」「現場が変わったか」で計られるべきなのです。

 

研修を設計・実践していると、よく受講後のアンケートで「勉強になりました」「気づきがありました」「楽しかったです」とのコメントをもらいますが、残念ながら本質的な評価とは言えません。

では、具体的に研修の効果を上げる3つの考え方をご紹介します。

 

組織課題に合致した研修を設計する

 

研修設計時の事前リサーチの段階で組織課題をきちんと把握して、課題にリンクした学びを提供することで、職場で活きる研修が設計できます。

これは課題認識の問題で、もしできていないようであれば、人事担当者が十分に育成できていないか、経営者が十分に課題を言語化できていないのかもしれません。

人事担当者であれ、研修会社の営業担当者であれ、経営者は課題をしっかり共有して初めて、課題解決に適した研修を設計できるのです。

 

学んだ内容と実務を「足場かけ」する

 

組織課題に合致した研修であっても、受講者が活用するイメージを持てなければ結局活用されません。

 

これは研修設計上の問題であり、技術的には

「研修の最後に実務にどう活かすかを言語化させる」

「事後課題を設ける」

などの方法で研修内容と現場を「足場かけ」することによって、ある程度、現場で活用イメージを持たせることができます。

 

しかし、どんなに研修内容を工夫しても受講者が「良いことを学んだ気がするが、具体的にどうしたらいいかわからない」という状況に陥ることはあります。

最後は「個人の行動変化・現場の変化を導くこと」できるかどうかという観点でチェックする必要があります。

 

学びを活かしやすい職場の雰囲気を作る

 

研修を受け、職場で活かしたいと前向きになった方がいたとします。

しかし、いざ職場に帰ってみると「忙しいのに研修受けられていいね」とか「どうせ役に立たないから早く仕事しろ」などと言われたらどうでしょうか。あるいはまったくの無関心だったらどうでしょうか。

活かしたくても活かせない状況では研修で学んだことを発揮することなどできるはずもありません。これは研修そのものに問題があるのでなく、職場風土の問題です。

 

特に上司の影響が大きいでしょう。最初から研修に意味が無いと決めてかかっている(が、経営層などが参加させた)場合に起きがちです。

否定的な意見が出ないとしても、研修翌日に職場に出社した際、「どうだった?」の一言もないようでは、職場に活かそうという意欲もなくなってしまうものです。

上司だけでなく、職場全体で受講者が学んできた内容に興味を持ち、業務に活かそうとする姿勢が大切です。

 

 

まとめ

 

いかがでしたでしょうか。

研修を専門に扱う企業に委託する方法もありますが、なんでもかんでも委託してしまうのはコストもかかりますので、慎重に検討しなければなりません。やはり、経営者と対話しながら自ら課題を特定し、研修を設計できる人事担当者の育成が必要と言えるでしょう。

 

研修は、うまく使えば日々の仕事では得られない知見を学ぶ良い機会になります。ぜひ学びを活かそうという意識を職場全体で共有して、個々人の行動変容、組織の変化を促してください。

浅井貴之

このコラムの著者:

参謀浅井 貴之

参謀の特長
人事系の業務全般を網羅。特に採用・人材育成に関する経験が豊富である。自らの経験と経営学を学んだ視点を活かし、経営戦略と人材マネジメントの高い次元での整合を目指す。