コラム

参謀 青木 永一

戦略なき経営は「経営ごっこ」なのか?

「組織は戦略に従う」

 

上の言葉は、経営史学者 アルフレッド・チャンドラー氏の言葉なのですが、戦略の位置づけと組織の本来の在り方を問う示唆に富む格言であり、経営学の講義でもよく伝えられる言葉です。

 

小規模企業経営の実態に照らし合わせて考察してみると、逆さにした「戦略は組織の制約に従う」こそ、実態を表しているのではないか?といった問いも考えられます。

 

 

戦略不在の経営の特徴

 

私は過去、金融業に従事し500社を超える企業倒産に間近で関わってきました。

倒産に至る過程は様々でしたが、やはりその多くは戦略の不在や不履行が挙げられます。

例えば戦略の定義を、「目的に対する計画と行動の適宜最適化」とした場合、場面や状況に応じ、限られた経営資源を最適配分することや、危機リスクを想定した備えを構築することなど、不確実な未来に対しての打ち手をデザインしていかなければなりません。

 

実はこれがなかなか手強い思考作業であるために、多くの企業が手を付けられない、または後回しにしてしまう結果、戦略の不在が散在すると考えています。

 

私の経験上から改めて振り返ると、戦略のない組織には大きく3つの特徴が挙げられます。

  1. ビジョンや課題に対して無関心なため、戦略を放棄した「平和ボケ型」
  2. 課題を認識する能力がないため、戦略の必要性が理解できない「愚鈍型」
  3. 課題の認識は常にあるけども、考え方や持つべき戦略がわからない「迷子型」

 

重要なことほど誰にも相談できずに、独りで迷路の深みに陥るのが小規模企業経営の実態と言っても過言ではないでしょう。その結果、戦略を放棄、または放置し安直に「拝金主義」を拠り所とする単細胞型の経営に成り下がるなどは上記3点の複合型とも言えるでしょう。

 

断っておきますが、お金儲けは決して悪ではないですし、事業継続には絶対に欠かせない「条件」です。

 

戦略のない状態を放置することによって、守銭奴に成り下がることを恥としない経営が悪だと私は強く伝えたいのです。

再度重ねて伝えておきますが、お金を儲けることは必須の「条件」です。

 

 

 

戦略の必要性とその定義について

 

組織には「かくありたい」という理想があって然るべきですし、多くの組織にはある(あった)はずです。

もうおわかりと思いますが、理想と現状の差をいかに埋めていくかを考える際に戦略的思考が必要となるのです。さらに言うならば、「戦略が動いている」状態とは、差別化のための持続的優位性構築のための打ち手が、現場各所で改善を繰り返しながら進んでいることを指します。

そのためには迅速な意思決定を基にした、最適な組織構造が設計され、責任の所在が明確にされていること。

そして何よりも現場各所において「我々の成果は何か」が明確になっている状態であることです。

 

戦略が動いたとしても、それでも思ったとおりの成果に結びつかないことが多いのが世の常であり、経営の妙、面白さです。

戦略を実現させるためには、人の癖(へき)に近しい「執念」の存在が成否を左右すると言っても過言ではありません。

 

「うまくいかないことの方が多いのならば、戦略があってもなくても一緒ではないか」、という問いもあるでしょう。しかし、各所における従業員たちの「作業」が一体何のために、そして自分たちが何を為そうとしているのか、何よりも理想に繋がるための挑戦であることを組織内部で共通認識に立っていることが重要であり、それこそを「組織」と呼ぶのではないでしょうか?

 

先に触れた戦略の簡易的な定義を、もう少し詳細にするならば、「目的までのプロセスがストーリーとして伝わる状態であり、競争優位性を築くための施策群が順列を持って整備と配置が為されること」と私は考えています。

そのうえで、簡易的に「目的に対する計画と行動の適宜最適化」、または「目標地点までのロードマップ」と言い換えて意識しています。

 

ご自身に合った、フィット感のある戦略の定義を見つけてもらいたいと思います。

 

 

 

組織は戦略に倣(なら)えてこそのモノ

 

優れた戦略には、経営者の感性と客観性のある論理性が備わり、実現性と納得性の高さがあります。そして何よりも具体的です。

さらに、一連の施策群の中に一見すると「なぜ?」と思える「非合理性」が備わっていることが肝になります。全てが合理的では個性も面白味もなく、目的までの経路が論理的で明瞭だと簡単に見抜かれてしまいます。ここに戦略を考える苦しさ、経営の醍醐味があるのです。

 

決して一度に全てが描けるようなものではありません。

 

外部と内部環境の変化に合わせて、大企業とは異なる制約条件の大きい経営資源のヒト、モノ、カネ、情報(技術)を、効率と効果の最大化のために配置し直し、何度も作り変えることを厭わない姿勢こそが、経営者の経営に対する執念の見せどころではないでしょうか。このしなやかさにこそ、小規模企業の強みが発揮されるところだと考えています。

 

戦略がひとまず定まれば、次にはそれに整合した環境の整備として組織デザインが必要となります。

 

ここは「組織論」の分野になるので別の機会に譲りますが、概略だけお伝えすると、組織構造や各種制度のハード面の更新とあるべき人材像、求めるスキル、会社と従業員との関係性などのソフト面を考察し検討を重ねることが必要となってきます。

 

例えば人事制度と戦略の関係では、戦略実現のためのあるべき人材像が定まれば、「採用→配置→育成→評価→報酬→(退職)」と順々に基準と制度を明確にすることが必要となります。ただし、事実として小規模企業の場合においては優秀な人材に巡り合う機会は決して多いとは言えません。そのためにも、採用した人材の可能性を後天的に育むためのユニークな社内育成の仕組化が重要となります。それがひいては競争優位性の構築にもなり得ます。

 

競争優位性とは、商品や製造方法だけではなく育成システムなどにまで及び、従業員たちの社に対する誇りや帰属意識を育み、企業の持続性を担保する根拠となります。

 

 

戦略と施策に整合性を持たせるまでの道のりは、当然に平坦ではありませんが、執念をもって「あるべき姿」にまで到達した組織は、思考や行動が非常にシンプルでしなやかさを持った強さが期待できます。

 

つまり、

「組織は戦略に従う」は、小規模企業の経営に対し「あなたの経営は経営ごっこではないか?」と問いかける、挑戦的な格言に思えてなりません。

 

参謀 青木 永一

このコラムの著者:

参謀青木 永一

参謀の特長
ベルロジック株式会社 代表取締役 経営学修士(MBA)メンバーの中でも、異色の経歴を持つ。 前職は、事業者向け専門の「ナニワの金融屋」であり、30代後半までの15年間の経験の中で、約500社を超える倒産と間近に関わってきた。 自称 マネジメント数学研究家(暇さえあれば、ビジネスと数学の交わり方をユーモアたっぷりに伝える工夫をしている)。