コラム

参謀 青木 永一

起業で失敗したくない人は必見!!「信用」と「信頼」の区別で犯罪が付け入る隙きから身を守れ

恥ずかしながら、数年前まで「信用」と「信頼」の区別を頭で理解しているだけで、怠惰で優柔不断な性格だったために時間的にも経済的にも随分と損をした苦い経験があります。

 

要は騙されることが多かった、ということです。

 

今思い起こしても腹立たしいのですが、元を正せばいずれも自分の欲深さや管理能力の欠如など脇の甘さが原因でした。

 

今後、同じ轍を踏むことがないように「信用」と「信頼」の区別と、それぞれに必要な条件を自戒を込めて書き残しておこうと思います。

 

 

起業のための「信用」を定義してみた

 

「信用」について、どのような説明がなされているかWikipediaを調べたところ記載がありませんでした(2020年12月4日現在)。

 

他の辞書でも調べてみましたが、「信じて用いること」の他は、株式投資などで扱われる信用取引についての記載でしたので割愛します。

 

ここからは、私の主観であることをご理解ください。

 

「信用」とは、付与したりされたりする一種の『モノ』を表現した言葉だと考えています。

 

「信用に傷がついた」「信頼を与えた」など、言ったり聞いたりすることが多いのではないでしょうか。まさしく、信用を御札(おふだ)のような『モノ』として捉えている一つの表れでしょう。

 

しかし同時に、「あなたを信用していた」のように人との関係に紐づいた表現もあります。そのことを間違いと意見するつもりはありません。ただし、その場合には「絆(ほだ)される」可能性が高まり、騙されたりした結果、財産を失うこともあり得ますのでご注意ください。

 

この点については、後に説明します。

 

信用には備えておくべき『条件』が必要であり、さらには一定期間に限って有効なものです。

 

備えておくべき条件とは、例えば実績や地位、交友関係、言動の一貫性、さらには資産の状態と負債の返済状況、信用調査の結果などが該当するでしょう。これらが満たされない場合は、保全(補完)が必要になります。

 

例えば、銀行で融資を受ける場合を想定すると理解しやすいのではないでしょうか。融資の実行を判断する立場からすれば、条件が備わっている現時点の「状態」が最も重要であり、その状態に至ったプロセスのような情緒性が先に必要となることはありません。

 

信用を与える側にとっては、実利だけでなく損害を被らない保守的な確からしさを十分に考察した判断が必要なため、先にも触れましたが寸分の情にも絆されることは許されません。破滅の種を撒く原因になります。

 

つまり、『信用』とは現状の姿を十分に鑑みたうえで、双方の利害が一致し、条件を満たした場合に成り立つ時限と罰則付きの契約と言えるでしょう。

 

 

 

起業のための「信頼」を定義してみた

 

信頼とは、相手を信用し、頼ること

(Wikipediaより抜粋)

 

なるほど。

 

個人的には、「信頼」とは、プロセスとフィーリングに依存した『関係』を表す言葉だと考えています。

 

例えば、

「信頼関係を築く」

「信頼感がある」

「信頼を寄せる」

これらの表現は、「信用」との比較においていずれも「人」に非常に近く、温度感が伝わる言葉としての印象を強く受けます。多くは家族や友人、同僚や恋人などの、とても大切な人との繫がりには欠かせない条件ではないでしょうか。

 

しかし、勘違いや絆(ほだ)されることによる信頼関係も成り立つため、トラブルに至ることも少なくない、厄介ものの側面もあります。身近な人やご自身の人間関係の恥的な、「これは人には言えない」といった経験をお持ちの方も少なくないのではないでしょうか。

 

つまり、『信頼』とは双方がこれまでのプロセスを共有し合うことで未来に期待し合う、情緒的で相互依存の関係性を表した言葉と言えるでしょう。

 

 

特に、ビジネスシーンでは両者の違いを明確に分けて理解しておくことが賢明です。

 

信頼する、しないは個人の主観に委ねられますが、信用を付与する、しないについては企業(個人)の財産と存続にかかることなので、主観を排除した、客観的な確からしさとルールが必要です。

 

 

 

私の起業後の失敗談から考える

 

恥さらしな話ですが、私が事業再生で経験した失敗事例をお伝えします。

 

この記事を読んでくださっている方の、今後の参考になれば幸いです。

 

結論を先に伝えると、資金繰りの詐欺被害に遭った事例です。

 

簡単な状況を説明します。

2014年からの5年間、東大阪市でビルメンテナンス事業を経営するB社(代表I)の事業再生で、私の会社が経営管理に介入していました。B社は、体裁こそ株式会社であるものの、実態は個人事業主と変わらない規模であり、慢性的な資金難に喘いでいました。

 

I氏の性格は真面目で、手元の作業には非常にマメでしたが、致命的だったのは場当たり的で事業計画を考える習慣がなく、収益や費用構造の推移すら把握しないまま経営を感覚だけに頼る、怠惰性の持ち主であったことです。

 

よくある話なのですが、手元の作業量の増減に一喜一憂する人物でした。

 

さらに、経営とは直接関係のないことですが、自己評価が無駄に高く、現実はこのありさまだったにもかかわらずその現状に対する不満を解消するために、特に女性の前になると「ええかっこしい」で取り繕う人物でした。

 

ここまでで、ある程度はどのような人物像なのかイメージしていただけると思います。

 

さて、

私が介入して以降、保証債務などの圧縮のため資金管理の権限を移譲してもらい、季節性売上のボラティリティ(ブレ幅)を低く抑えるための販路拡大施策、そしてスタッフ募集施策の変更と育成プランまで、網羅的かつ中長期的な再生プランを計画し実行を開始しました。

 

地道に改善努力を重ね、大きな成果を実感できなくても腐ることなく、真面目に作業に取り組み続けて2年が過ぎた頃には以前と比較して受注も安定し、債務も当初と比較して3割弱程度の削減を果たせ、ゆっくりの歩みですが確実に進捗していました。

 

贅沢さえしなければ十分に食べていけるまでに経営環境は改善し、2019年夏の繁忙期もそろそろ終わりを迎える頃、今後さらに受注を増やすためのスタッフの増員と技術講習の仕組みを作る準備に取り掛かろうとしていた矢先、突如としてI氏が失踪し再生計画が頓挫してしまったのです。

 

 

I氏個人の致命的な欠陥である場当たり的な側面と、後で触れますが女性が絡んでいたと推測しています。

 

稚拙な自己評価の高さと、現実との間のギャップを埋めることを急いだのでしょう。

 

実は金額は僅かですが、この時までに私の会社からI氏の会社へ資本を入れていました。後の祭りですが、失踪した事実を知ってから経緯を調査した結果、重要な事実が判明しました。

 

私の会社口座へ取引先を装った入金工作に加えて、当初はI氏の奥様も共にビルメンテナンスの現場に従事していたのですが、再生プラン実行中にI氏の女性問題で離婚していた事実です。

 

離婚については、契約上の重要項目の告知義務に違反するかどうか議論の余地はありますが、取引先を装った入金工作については明らかな犯罪行為に該当します。

 

 

なぜ私に隙きが生まれたのか

 

信用更新のための定期調査を怠っていたことは、私の反省すべき点です。

 

先に伝えたように、I氏の性格は真面目でマメ。酷暑など季節的にとても辛い状況でも、働く姿勢はとても献身的でしたので個性の危険性は理解しながらも彼を高く評価していました。

 

人前での「ええかっこしい」についても、改めることを何度も話し合えていたので、私の中でそのことを「愛嬌」と認識する隙きが生まれていたことは認めます。

 

仕事に取り組む姿勢を高く評価したことは今でも間違いではなかったと思いますが、I氏の個性が持つ重要な欠陥部分を、ある時期以降から無防備に許容してしまったのは、つい私も付き合いが長くなったことで絆されてしまった隙きです。

 

再生プランが着実に実行されていたとはいえ、背伸びした贅沢を望んでいたのか満足にお金が使えない自分の現実の姿と、「自分はこんなところで燻(くすぶる)男ではない」と勘違いした理想像との乖離がストレスとして蓄積し、突如として爆発したのでしょう。

 

事実から逃避するような、女性の前での「ええかっこしい」が抜けきれず、私に対しても嘘を重ねることを厭わないようになったのだと思います。

 

 

ビジネスである以上、信用には積極的かつ定期的な更新が必要です。なぜならば、外部及び双方の内部環境は常に変化しますし、更新を怠ることによる損失は、企業や個人の財産を毀損させるからです。

 

私の恥的な話が、そのことを物語っていることはご理解いただけたと思います。

 

サラリーマンならば、被害を受けた経済的損害を会社から弁償請求されることはないと思いますが、その痛手を想像すらできない場合は、私が伝えている信用と信頼の区別についても共感はできないかもしれません。

 

しかし、私生活でお金の未回収問題があった時に、危険を省みずに歪んだ執念で取り返すことを考えるのは、実はサラリーマンの方が多いと個人的には感じています。

 

 

余談になりますが、I氏の弟は両親を騙してお金を貪り、自宅は抵当に入れられていたために立ち退きとなり、一家離散となりました。常日頃、I氏は弟への嫌悪と恨み節を私によく伝えていたのですが、結局は同じ穴のムジナ、そしてこれがI氏一家の成れの果ての姿なのでしょう。

 

その後、私はこの苦い経験を振り返り、自社のルールを再度見直すための出来事(事件)としました。

 

 

夢見て起業したあとのビジネスは、常に犯罪と隣合わせ

 

個人的な意見ですが、慢性的に資金繰りに行き詰まっている人や企業は、詐欺的行為を働く傾向が強いように思えます。

 

このことは、今回ご紹介した事例だけで判断しているのではなく、過去の金融業の経験と事業再生で関わってきた企業や個人への事前調査、再生プランの実行現場での経験を総括したうえでの持論です。

 

たとえ「最初から騙そうとしたわけではない」としても、所詮は事後の加害者側の言い訳であるため、耳を傾ける価値は一切ないと考えています。

 

 

ちなみに、具体的にどのような詐欺的行為を働くかですが、資金繰りのために売上の安定または増加を見せかけた自作自演行為などは定番です。また、簿外債務の隠蔽や納入業者との結託による仕入金額の割増操作とキックバックなどが顕著です。

 

この事実を暴くには、金融業の時に培ったいくつかの効果的な方法があるのですが、また別の機会にお伝えできればと思います。

 

誤解が生じるかもしれませんが、現在は事業再生に関わる取引先を『信頼』することはありません。信用付与の更新回数を計測することで、事業再生の確度と当事者意識を推し量り、利害関係が終了するまでは相手への個人感情へ介入することはあっても、させることは一切ありません。

金融業の時に嫌というほどこのことを理解していたはずなのですが、人と関わることが好きな性分なためつい絆され、油断していました。

 

人として冷酷だとかそのような問題ではなく、関係性の明確な区別であり、また騙されて諦める理不尽さを回避するための仕組みだと考えています。このことは、プライベートの関係ではないことの戒めです。

 

あくまでも関係はビジネスであり、信用を第一とし、その構築に尽くす関係であることを失敗の経験から教わりました。

 

私自身の人間力の弱さと怠惰性を反省し、強く自覚した具体的な行動変革です。

 

 

おわりに

 

小規模企業の経営者だけではなく、ビジネスに関わる皆さんにおいては、信用と信頼の区別を十分に認識し、信用については一定期間ごとの更新を行う心がけを持っていただければと思います。

 

自分の未来を守るため、そして質の高いビジネスへと昇華させるためにも、分けて考える、割り切って判断することを心がけてください。

 

自戒を込めて。

 

参謀 青木 永一

 


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このコラムの著者:

参謀青木 永一

参謀の特長
ベルロジック株式会社 代表取締役 経営学修士(MBA)メンバーの中でも、異色の経歴を持つ。 前職は、事業者向け専門の「ナニワの金融屋」であり、30代後半までの15年間の経験の中で、約500社を超える倒産と間近に関わってきた。 自称 マネジメント数学研究家(暇さえあれば、ビジネスと数学の交わり方をユーモアたっぷりに伝える工夫をしている)。