コラム

参謀 青木 永一

小さな会社が新規事業を考えるとき押さえておきたいシンプルなポイント

仕事柄、業績がとても好調な経営者から、「事業の多角的な展開を考えているんですが」と相談を受けることがあります。

 

起業家らしい、野心に溢れた気概を感じると同時に、有り余る熱量に対しこちらが求める愚直さとの寸法が合うだろうかと、懸念を感じるのが正直な気持ちです。

 

一方で、業績の不調に頭を抱える経営者からは、「このままじゃ、死ぬのを待つようなものなので、他の手を見つけなければ・・・・・・」と相談を受けることも少なくありません。

 

恐れと不安、責任など、従業員の立場で感じる”それ”とは異色の、経営者ゆえの心情を察すると同時に、焦りによる短絡的な考えと、こちらが求める本質的な改善となる中長期スパンの寸法が合うだろうかと、懸念を感じるのが正直な気持ちです。

 

業績の好調と不調、両者の置かれた状況は異なりますが、共通しているのは「次の一手」を模索していること、そして「捨て身」的な危険性を感じることです。

 

今回は、新規事業を考えるときの考察点について、事例を使って一緒に考えてみたいと思います。

 

 

「既存事業の本質的な価値は何か」その見極めと表現が明暗を分ける !?

 

経営者として、事業展開のための次の一手を打つとき、皆さんならばどのように考えますか?

 

思いつきや、甘い誘いに乗って事業展開を仕掛けることのないように、未然防止策として是非一度考えてみてください。

 

考える人

 

一例として考えられる、大枠の手順を以下に示します。

 

  1. 経営課題の理解
  2. 社会や業界など外部環境の現状と動向予測
  3. 経営資源のたな卸し
  4. 打ち手の洗い出し
  5. 実現可能性と効果などを踏まえた打ち手の取捨選択
  6. 継続的な改善の取組み

 

一般的な大枠の手順としては、このようなものでしょう。

 

とは言え、特に小規模企業の場合だと、目の前の受発注作業や顧客対応、資金繰り対策などの経営の維持活動に追われる毎日のため、経営課題に真摯に向き合うスケジュールは、もう何年も期日のない延期が続いているのが現実ではないでしょうか。

 

厳しい言葉になりますが、課題の先送りはゆでガエル状態に等しく、惰性に浸ってきた長い時間は、行動の可動域を狭めるだけでなく、確実に経営を殺そうとします。

 

最悪な状態に至る直前、多くの経営者が共通して選択する行動は、私が見てきた限りロクなものではありませんでした。

 

一例を示すと、

危機的状況を目の前に突き付けられて初めて、これまで見開くことなどなかった名刺台帳の1ページ目から連絡をとり、破綻計画と考えても不思議ではない値下げありきの受注懇願、思い付きの一発逆転アイデアをもとに、取引先に共同での新規ビジネスの提案と出資依頼。最悪のケースに至っては、発注先に無理を聞いてもらい、工事に着手する前に着手金名目で半金を振り込ませ、そのまま行方を眩(くら)ませる詐欺犯罪。

 

すべて、実際にあった話です。

 

「藁をもつかむ思い」の表現では収まらず、沈んでいく泥舟が周りを巻き込む絵面です。

 

小規模企業の場合は、大企業のように経営資源が潤沢にあるわけではありません。ですので、脈略のない足し算的な「新規」の継ぎ足しは避けたほうが賢明です。

 

では、どのように考えれば良いのか。

 

結論は、既存事業の本質的な価値をあぶり出し、その本質を文脈の軸に据えて事業を展開させることです。

 

そのためには、大枠の手順でお伝えした「4.経営資源のたな卸し」の際に、具体的な事業内容を抽象化させる表現力が必要になります。

 

わかりにくいですね。

 

例えば、住宅販売業の事業内容は「戸建て及びマンション住宅の販売」と表現されることが一般的です。この事業内容を抽象度を上げた表現にすると、「人がより良く生きるための基礎的インフラの提供」といった表現が考えられます。さらに別角度からは、「周辺地域の情報集約と厳選した内容の発信」とも考えられます。

 

つまり、「自分たちの存在によって、そもそも顧客は何を得ているのか?」と、本質的な問いに対する回答の解像度に伸縮性を持たせることです。

 

この点を押さえることが、「既存事業の本質を文脈の軸に据えた事業展開」には必須となります。

 

 

ここまでの説明をご理解いただけたことを前提に、私の金融業時代、そして事業再生業務で携わった2社の事例をご紹介したいと思います。

 

プレゼン

 

 

わかりやすく特徴的な 失敗事例と成功事例の比較

 

新規事業が自己破産の決定打 !? M住宅設備機器販売の失敗事例

 

大阪府守口市にて、個人向けに住宅設備機器の販売及び、設置工事を営んでいた会社の倒産事例です。

 

住宅設備機器とは、システムキッチンやバスルーム、給湯機器、トイレなど住宅に備えられている設備全般を指します。

 

新築時はもちろん、リフォーム時や故障時の取り替え需要に対応するため、展示場で購入した顧客へのメーカーからの工事依頼や、一般顧客から直接の問い合わせによる販売、そして設置後のメンテナンス工事などで、年商6000万前後の規模だったと記憶しています(記憶が定かではありません)。

決して、儲かっている状態ではないものの繁忙時には外注業者に依頼し、メンテナンス業務の裾野を広げながら細々と事業を営む、そのような状況でした。

 

創業から7年ほど経過したタイミングで、知人を介して私の会社に資金融通の相談があり、後日、停車させた社長M氏の車の中で事情を聞かせてもらったことを記憶しています。

 

経営は非常に厳しい局面にあり、取引先への支払い、従業員への給料や借入の返済などに必要な資金を調達するため、身内や金融機関へ走る日が続いるとのことでした。しかし、業績の落ち込みを理由に第三者の保証人や物的担保を要求されるなど、実質的に万策尽きた状態とのこと。

 

そのような状況下、M氏の与信調査の過程で2度目にお会いしたとき、打開策として話してくれた内容が以下のとおりです。

 

青木さん、これからの時代は高齢化が進むから、独り身の年寄りが増えるでしょ?そうなると、寂しさを紛らわすためにペットの需要が多くなることは間違いない。ただ、ペットを販売するには許認可が必要ですし、飼育に手間とお金がかかるので、直接的な販売はなかなか敷居が高い。そこで考えたのですが、ペットを直接的に取り扱うことはひとまずあきらめ、一緒に暮らしていたペットが亡くなった後に必要となる『墓石プレート』を販売しようと考えたんです。

 

さらに意外だったのは、この直後です。

 

さっそく、試作品(試供品)を作ってみたんです。

 

と言われ、車の後部座席に積み上げたられた試作品を披露してくれました。

 

一般的な住宅用の表札を一回り程度大きくした品物で、積み上げられた数は100~150個程度だったと記憶しています。

 

墓石プレート販売事業の良し悪しを評価するつもりはありません。また、当時の私は金融業でしたので、最終的に債権の回収が可能か、そのような観点でのみM氏を観察、調査しており、相手の事業を戦略やファイナンスなどの観点では考えていませんでした。

 

ただ、今こうして改めて考え直してみると、M住宅設備機器販売が墓石プレートの販売事業に手を出した理由には大きな疑問が湧きます。住宅設備販売の本質を何と定義するかにもよりますが、どう考えても販路や技術の応用が効くとは思えません。そればかりか、業績が悪化している状況で、本業と比較して単位当たりの利益「額」がケタ違いに薄い新規事業になぜ貴重な資金を投じようと考え、それを実行に移したのか。

 

とは言え、本人は誰よりも将来を案じ、まじめに取り組んでいたのだと思います。そう考えると、切羽詰まった時には誰もが不可解な行動を選択することは不思議ではないのかもしれません。

 

 

その後のM住宅設備機器販売の動向ですが、自己破産の申し立てにより倒産し、購入して間もない新築の自宅も競売にかけられ、家族とも離れて暮らすあり様となったことを、M氏と取引のあった関係者から聞かされました。

 

皮肉にも、立て直しを図った新規事業が倒産を決定的とさせた事例です。

 

自己破産

 

 

自分たちの技術が意外な展開に! Rペイントの成功事例

 

大阪市で建築塗装業を営む、『Rペイント』の事業再生に携わった事例をご紹介します。

 

建築塗装とは、主に住宅や施設などの建築物の外壁及び内壁、付属物などを塗装することを指します。作業内容には、事前の段取りとして高圧洗浄機による外壁の水洗いと、塗料を付着をさせてはいけない箇所へのビニールやテープで防護する「養生」があります。その後、本作業の塗装があるのですが、塗装と一口に言っても「吹付け」、「塗布」、「散布」などに分けられ、それぞれに応じて使用する機材工具や、技術に大きな違いがあります(この点が重要になります)。作業現場で観察した際、感覚的に見える手さばきの技巧は、経験に裏付けされた感性と確かな技術が宿っていることを実感しました。

 

 

2020年2月、「新型コロナウイルス」の影響が騒がれはじめ、同年6月頃には世間の様相がガラッと変わったように感じたことを記憶しています。直接的な影響なのかどうかは諸説ありますが、夏ごろから現場の数がやや減少しはじめ、この時に真っ先に懸念したのが、このまま受注が減少し続けた場合の運転資金の枯渇問題です。決して楽な状況で経営を行っていたわけではありませんので、当然のことです。

 

すぐさま代表と個別に協議を持ち、その後に従業員13名全員を含めた、今後に備えるためのミーティングを何度か重ねました。

 

従業員の中でも楽観と悲観が入り混じった状況であったため、「もしもに備えた新規展開のアイデア発散の会」と、少しユルめのテーマ設定で意見を自由に発散させる段階を経て、タイミングを見計らってから「事業の本質を考える」にテーマを移し、じっくりと考える時間を持つことにしました。

 

代表をはじめとする従業員の皆さんにとって、自分たちの事業が「建築塗装」であることを疑ったことなど、これまで一度もありません。

 

当然のことです。

 

「顧客に対して、自分たちが提供している価値は何か?」と、初めて聞かされる問いに対して、はじめは躊躇(ちゅうちょ)を隠せない様子でしたが、何を言ってもいいことを理解してからは積極的に意見がいくつも挙がりました。

 

最終的には、雨風や気温変化などの気象リスクから資産を守ることを意味する「外部環境リスクからの防護対策」と定義されました。

 

抽象度の高さ、表現は納得感の高いものです。

 

今回お伝えするケースに関しては、その後の話はとてもシンプルなものです。

 

2020年夏の時点で、外部環境を考える際に「新型コロナウイルス」の影響は無視できない業績を悪化させる要因です。さらには、今後どのように推移するかはまったく読めず、人によって楽観的、悲観的と二分されている状況でした。そのような状況で、自分たちの技術が活かせるものを従業員全員の相互補完でアイデアを出し合いリストアップしていくと、具体的な打ち手を集約させることに時間はさほど必要ありませんでした。

 

実は、病院や高齢者施設などで感染病が発生した際、衛生管理を担う業者による消毒剤の散布が行われます。その際に使用する機材、技術、作業手順などが自分たちの〝それ″と非常に近しく、当時の環境下において需要は相当大きいことが予想されました。

 

こうして打ち手を導き出すことはできましたが、実際に事業として展開させるにはここからがとても長く、腐らずに試行錯誤を続けることになる試練の多い道のりでした。

 

 

今回は、「本質を文脈の軸に据えて事業を展開させる」ための考え方をお伝えすることが目的ですので、ここから先の話は詳しくはご説明しませんが、結果をお伝えすると、作業員として経験のない素人の方々に向けた散布機材の取扱方法とコツ、作業手順、安全に施工するためのルールなどを伝える「講習の教え手」の受注に成功し、その後、施設消毒の現場を受注するに至りました。

 

いかがでしょうか?

M住宅設備機器販売の事例と比較しても、違いは明確ではないでしょうか。

 

ただし、技術やサービスの汎用性を考えるだけでは実は不足がかなり大きく、必ず踏まえなければならないのは「収益性と手間のバランス」を予測、検証することです。

 

最後に、こちらを簡潔にお伝えして終わりたいと思います。

 

重要な点になりますので、未来への備えのためにもう少しだけお付き合いください。

 

 

重要!収益と手間のバランス問題

 

M住宅設備機器に話を戻します。

 

当時、M社長が墓石プレートの一回当たりの販売量と販売単価、そのほかにも見込んだ数字が実現されるまでにかかる時間や手間について、どこまで考えたかは不明です。

 

「エイヤっ!」と勢いだけで始めたのではないと思いますが、今回の事業展開を決断した合理的な理由を見つけることができません。なぜなら、既存事業における銀行からの借入額や返済額、その他固定的にかかる費用の支払い額などを、墓石プレート販売の収益性では到底カバーできるとは思えないからです。

 

特に銀行からの借入は、既存事業の売上規模や収益「額」が基礎的条件になっているはずです。決して収益「率」が基礎的条件にはなりません。

 

ちなみに、「率」は一定の規模を満たした場合に、量(額)の状態を把握、分析、そして改善していくための指標になるものだと考えています。

 

話を戻します。

システムキッチンの販売設置がもたらす収益と、墓石プレート一回当たりの販売で得られる収益の「額」の違いを想像してみてください。

 

システムキッチンの場合、一台あたり数十万円は下りません。中には、数百万円するものも珍しくなく、メーカーからの販売奨励金や設置にかかる取り付け費用などで得られる一台あたりの収益額は数万円、十数万円になります。それが、外注業者に手伝ってもらうことで日に2台や3台の取扱いとなると、収益の「額」は相応に至ることは想像できると思います。

 

一方で、墓石プレートの場合、業者または個人に向けた販売のいずれかで収益額は異なりますが、墓石プレート一枚あたりの販売金額はせいぜい数千円が一般的な相場でしょう。その場合、利益は一枚あたり数百円、数千円までが限界と推測できます。仮にペット関連の小売専門業者が在庫リスクを抱えることを厭わず、一定量の買い取りに応じた場合には数万円の収益に至りますが、卸売り業者や小売り店の商品を置くスペースの都合と、置かれた商品の回転率を考慮すると、なかなか実現しにくいのではないでしょうか。

 

仮に、ペットの葬儀業者にうまく取り入れば、比較的安定した受注数があるかもしれませんが、これまで縁もゆかりもない新規参入者が受注を開拓するまでにかかる時間を考えると、無謀だと考えるのは私だけでしょうか。

 

バランス

 

既存事業に借入がなく(または小さく)、さらに固定費の支払いも少額ならば、ある程度は好き勝手にやればいいと思いますが、M住宅設備機器販売はそのような状況ではありませんでした。ですので、新規事業の展開を検討する際には、既存事業の諸般の事情も含め、定性と定量の情報を相対的に絡めて考える必要があります。

 

Rペイントの場合は、住宅を塗装する作業工程、作業時間や人工(にんく)の数と、消毒剤の散布にかかる作業時間など諸々の条件と比較しても、かなり良いものでした。

 

作業時間に至っては施設の大きさにもよりますが、建築塗装の場合5人工で1週間程度かかる現場が、消毒剤の散布ならば同じ5人工で2日間もあれば十分に終了します。平米単価について詳しくは書きませんが、消毒剤散布は建築塗装と比べて、当時で約2~3割低かったものの、作業時間が約3分の1~半分ほどに短縮されることで、月間で取り扱える現場数が2~3倍ほど増えます。

 

数が減少したとはいえ、建築塗装の現場も回しながらのことなので、収益力が増すことはご理解いただけると思います。

 

 

ちなみに、建築塗装が屋外での作業であることに対して消毒散布は室内であることが多く、夏や冬には作業環境としてもメリットがあります。このあたりも、従業員たちにとって副次的な、そして持続的な動機付けとなり、希望を持って粘り強く営業活動を行えた理由になったのではないかと考えています。

 

 

今回ご紹介した2社は、私が携わった中でも比較的わかりやすい特徴的なケースです。対照的なM住宅設備機器販売とRペイントを比べてみて、事業展開の考え方と経緯の違いなど、どのように感じられたでしょうか。

 

何かひとつでも参考になる考え方があれば幸いです。

 

ヒント

 

おわりに

 

最後に、ポイントをまとめておきます。

 

経営資源の底が浅く、制約が強く働く中小企業が事業の多角化を検討する際は、自社の既存製品やサービスの本質的価値の軸から外れないことです。

 

加えて、収益の「額」が、負債や費用の「額」と、そして作業工程や手間などと相対的に考えて、マイナスの方向にかけ離れないかを熟慮することが重要になります。

 

最低限、以上の内容については十分に検討して取り組んでいただければと思います。

 

お伝えしたいことはまだありますが、今回はここまでにします。

 

参謀 青木 永一

 


最後までお読みいただきありがとうございます。

 

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このコラムの著者:

参謀青木 永一

参謀の特長
ベルロジック株式会社 代表取締役 経営学修士(MBA)メンバーの中でも、異色の経歴を持つ。 前職は、事業者向け専門の「ナニワの金融屋」であり、30代後半までの15年間の経験の中で、約500社を超える倒産と間近に関わってきた。
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