コラム

参謀 横山 研太郎

「もったいない」が命取り? コンコルド効果に陥らないようにするために

人間だれしも「もったいない」、「失敗を取り戻したい」という気持ちを持つものです。この感情は、モノを大切にすること、努力して成長することにつながる側面もありますが、その一方で、人間の判断を鈍らせてしまうものでもあります。

「コンコルド効果(※)」と呼ばれる、誤った投資判断・経営判断を引き起こしかねない人間心理について知っておきましょう。

 

※コンコルド効果は、「サンクコスト効果」と呼ばれることもあります

 

 

コンコルド効果とは

 

コンコルドとは、かつて利用されていた超音速旅客機です。

開発当初は注目されていたものの、さまざまな事情でキャンセルが相次ぎ、このまま開発を続けたとしても赤字が拡大し続けるだけだと判明しました。

 

しかし、計画を中止するという決断を下すことができません。赤字が拡大することがわかっているにもかかわらず、です。

その主な理由は、失敗を認めたくない気持ちがあったことや、これまでに投じてきた巨額の資金や時間が無駄になってしまうことを受け入れられなかったことが挙げられます。

 

結局、商品化はされたものの、プロジェクトとしては巨額の赤字を残す結果となってしまいました。

 

 

中小企業でも起きるコンコルド効果の具体例

 

このようなことは、中小企業にとっても他人事ではありません。投資金額のケタが違うだけで、同じような失敗をしてしまう可能性があります。

 

【設備投資に関する例】

注文の増加に対応するために生産ラインを拡充したところ、思ったほど受注できず、ラインの稼働率が低迷。

稼働率を高めるために安値で受注量を増やしたが、結果として、既存顧客へ販売している分も値下げせざるを得なくなり、利益が少なくなってしまった。

 

【人材投資に関する例】

新規事業開発部門を立ち上げたが、なかなか収益を上げられるプランができない。

しかし、成果のないまま終われないと解散する機会を見失い、今となっては、社内のお荷物部署と思われるようになってしまった。

 

このような事態にならないようにするにはどうすればよいのでしょうか。

 

 

対策① 投資判断をする前に厳しくシミュレーションする

 

まずは、投資するかどうかを厳しく検討することが大切です。

新しいことをしようとするとき、ほとんどの場合、その計画は楽観的なプランになってしまいます。「これならうまくいくんじゃないか」と考えて計画するのですから、甘いプランになってしまうのも仕方ないでしょう。

 

そこで、計画をそのまま鵜呑みにしてしまうのではなく、悲観的なシナリオになった場合の想定もシミュレーションするようにしましょう。

どの程度まで厳しく見るべきなのかという基準はありませんが、悲観シナリオを考えずに実行してしまうよりは成功率を高めることができるでしょう。

 

 

対策② 過去の失敗は反省して、未来志向で判断する

 

もうひとつは、投資を実行した後の話です。

うまくいかないことがわかってきたときには、その失敗を引きずらないで、撤退するかどうかの判断を下しましょう。そして、同じ失敗を繰り返さないよう反省し、次は慎重に投資判断をすることです。

 

今まで投資してきたお金や時間は、取り戻すことができないものです。それはあきらめて、「続けることが、さらに傷口を広げてしまうものなのか」という「未来」を基準にして判断すべきです。

「もう少しがんばれば、きっとよくなるはずだ!」と思ってしまいそうですが、運を天に任せるのは判断ではありません。先のコンコルドの一件も、判断の先送りが、損失額を天文学的な規模に引き上げてしまいました。

 

 

判断ミスにブレーキをかけるのが経営者・管理職の仕事

 

投資段階であっても、失敗したことが分かったときであっても、少しでも早いタイミングでブレーキをかけることが大切です。そして、その判断をするのは経営者や管理職の仕事です。

 

現場は、目標などに追われる環境に陥りやすく、「何とかしなくてはいけない!」と無謀な行動をとろうとしてしまいがちです。そのために、冷静な判断ができないまま、理想的な結果を出すことを前提にしたプランを提案する傾向にあります。

その点を理解して、現実的なプランなのかを考えて投資判断をしなければなりません。また、実行後も冷静に撤退の判断ができるように心がけましょう。

このコラムの著者:

参謀横山 研太郎

参謀の特長
ねこのて合同会社 代表 資産運用のアドバイスを柱とするファイナンシャルプランナー、保険代理店、金融商品仲介業