- 参謀の特長
- ねこのて合同会社 代表 資産運用のアドバイスを柱とするファイナンシャルプランナー、保険代理店、金融商品仲介業
コラム
参謀 横山 研太郎
中小企業でも「こっそり」価格決定権を握る方法
「値決めは経営」
これは、京セラやKDDIの創業者であり、経営者として多くの人からの尊敬を集める稲森和夫氏の有名な言葉です。
しかし、特に中小企業においては、価格を自社が自由に決められないことがほとんどでしょう。
では、どのようにすれば、価格決定権を持つことが難しい中でも適正な利益を得ることができるようになるのでしょうか。
目次
中小企業は板挟みで価格決定権が小さい
多くの中小企業は、仕入先と得意先の板挟みにあっているのではないでしょうか。
得意先自身も厳しい価格競争を強いられているため、そこに納入する価格を好きなように決めることは容易ではありません。また、仕入れる材料は、メーカーが統廃合を繰り返して寡占化が進んだため、値上げが強硬になり、交渉余地は少ないのが現状です。
稲森氏の経営12か条によると、
「値決めは、製品の価値を正確に判断した上で、製品一個当たりの利幅と、販売数量の積が極大値になる一点を求めることで行います」
「お客様が喜んでくださる最高の値段にしなければなりません」
とあります。
しかし、価格を決める主導権を持つことができず、これまでの価格推移や取引経緯などから適正ではない価格になっているのならば、いきなり価格を強引に買えることはできません。
そこで、価格を変更する機会をとらえて、少しずつ適正価格に近付けられるような工夫をする必要があるのです。
価格を利益率で考えて、正しい価格を意識する
では、どのようにすれば、得意先に喜んでもらいながら、自社も適正な利益を得ることができるようになるのでしょうか。
その際に忘れてはいけないのが、「利益は金額ではなく率で考えること」です。
利益率を下げるような値決めをしてしまうことは、長い目で見ると、自社はもちろん、得意先にも迷惑をかけてしまうことになります。
そのため、値上げ・値下げするときに死守したい「基準となる金額」を、利益率を落とさないように設定する必要があります。
値上げするときの考え方
材料価格の上昇などを、商品価格に転嫁せざるを得ない場合には、どのように値上げ幅を決めればよいでしょうか。
「1㎏の鉄を加工した製品」を例にして考えてみましょう。
材料となる鉄は1㎏あたり100円で仕入れ、加工コストを加えると原価が140円で、販売価格は200円でした。
材料が100円から110円に上昇した場合、原価は150円になりますが、値上げすべき金額は「10円」ではありません。
従来、140円で作ったものを200円で売っていました。粗利率にすると30%です。最低でもこれを維持することができるように、値上げ幅を決めなければなりません。
原価が150円になったのですから、粗利率を30%にするには215円で売らなければなりません。
実際には、言い値で受け入れられることは難しいでしょうから、その分を考慮すると、材料の値上がり率と同じ10%程度の値上げはしなければならないでしょう。
今の価格が安すぎると思うのであれば、値上げ前よりも粗利率が高くできるような価格設定にしておき、交渉されたとしても現状の粗利率を維持できるようにするのがよいでしょう。
値下げをするときの考え方
逆に、値下げをしなければならない場合にはどうすればよいでしょうか。
上の例と同じく、原価140円で売価200円の製品で考えます。
当初は、粗利率が30%でしたが、少しでも利幅を確保するために、コスト削減の努力をしてきていました。その甲斐もあって、原価は130円まで抑えることができ、粗利率は35%まで向上しました。
このタイミングで得意先から値下げ要求がありました。
原価は130円ですが、当初と同じ粗利率30%を維持できる売価は186円となります。ここは最低ラインとして死守したいところでしょう。
そもそも、原価を抑えることができたのは自社の努力であるため、その全てを得意先にプレゼントする必要はありません。その結果、最初に提示する金額は、190円から200円の間となるでしょう。
最終的に、当初の粗利率30%を超える価格、つまり186円を超える売価で決着がつけば、より適正価格に近付いたと言えるでしょう。
まとめ
このように、ひとつの製品価格を「利益率」でとらえることによって、得意先に喜んでもらいながら、自社にとっても納得のいく適正価格に近付けていくことができます。
もちろん、それだけのことを実行するには、常日頃からよい製品を低価格で作る努力が必要ですが、そこにこのようなテクニックをミックスすることで、よりよい経営状態を実現することができるようになるのです。