コラム

参謀 青木 永一

社内環境の正しい現状把握には 情報スパイを潜ませるのが超おススメな理由

スパイ

 

誤解を与えるようなタイトルですが、コラムの最後までお付き合いください。

 

巷では、「経営者目線」を持てと よく言われますが、では 経営者が持つべき目線とはどのようなものでしょうか。

 

有能なサラリーマンになりたければ2つ上の役職の目線を持つことだと、昔にどこかで聞いた覚えがあります。

 

なぜ1つではなく2つ上なのか。

 

「視座の高さ的にはちょうどいい」といった漠然とした答えで済まさず、今回はもう少しだけ具体的に捉えることに挑みたいと思います。

 

 

視座の高さは2つ上が もっとも適している理由

 

個人的には、自分の直接の上司が受ける評価へのコミットメントだと考えます。

 

2つ上の上司は、自分の直接の上司の上司ですよね。

 

となると、直接の上司を評価する立場です。

 

自分の直接の上司の成果や昇進に寄与するように考えた行動と成果に挑むことで、上司から「こいつの力が随分と寄与してくれた」「よくできる奴だな」と評価されるのでしょう。

 

直接の上司目線では、認められようと思うばかりに 我利我利とした自分自身の成果に走り過ぎてしまい、意図せず上司から避けられてしまうかもしれません。へたをすれば、ひがみなどの個人的な感情の攻撃対象となるリスクもあります。

 

話をわかりやすくするために、あえて「ドラえもん」で例えてみます。

 

のび太を上司とした場合の 出木杉くんの立場で考えてみてください。

 

きっとあなたは なにをやらせても「できるやつ」と評価されるに間違いありませんよね。

 

あなたの上司が のび太のようなひがみっぽい性格ならば、勘違いする心情は 想像に易いのではないでしょうか。

 

出木杉くん(あなた)に悪意はなくとも、その活躍ぶりがのび太上司にひがまれてしまうと、出木杉くんの出世はかなり厳しくなりそうです(笑)。

 

これが直接の上司目線で仕事をすると起こり得ることです。

 

では、3つ上の上司目線ではどうでしょうか。

 

例えばジャイアンが3つ上の上司としましょう。

 

2つ上がスネ夫、直接の上司(1つ上)がのび太、そして出木杉くん(あなた)の順番です。

 

ジャイアンの目線で仕事をどれだけ頑張っても、自分の評価には間接的にもつながりそうにありません。ひょっとすると2つ上のスネ夫から自分の直接の上司(のび太)が評価を受けるかもしれませんが、それでおしまいです。

 

この場面だと、2つ上の上司のスネ夫が意地悪な場合、出木杉くんの活躍が功を奏したことを知りつつ 意図的に隠し、全部自分の手柄にしそうじゃないですか?(笑)。

 

結果的に労多くして功少なしとなりかねません。

 

これでは、よほどのお人好しでなければ「やってらんねぇ」となっちゃいますよね。

 

ですが、

2つ上の上司がスネ夫のような場合はともかくとして、自分の直接の上司を勝たせることを念頭に試行錯誤することが 有能なサラリーマンになる可能性が高いことには違いありません。

 

そのためにも、直接の上司とは期日と成果などの期待値を常に確認しあい、適宜 報連相とPDCAを回すことによって 日々の行動修正を図ることが重要となります。

 

組織は、自分の成果や課題にしか興味と視点が向かない人のことを『有能』と評価することはありません。

 

このシンプルな原則を理解しておくことが、良好な関係性を築きながら自分の評価を高められる一因になるのではないでしょうか。

 

ここまでは、有能なサラリーマンになりたければ2つ上の役職の視座が大切だという理由について考察してきましたが、では本題に戻って、経営者が持つべき目線とはどのようなものでしょうか。

 

 

情報スパイの狙いと その効果(実例付き)

 

ここでは、スタッフたちと現場での作業に接することが多い、従業員数30名未満の小さな会社の場合に限った話として捉えてください。

 

結論からお伝えすると、会社のために尽力する「従業員目線」と個人的には考えます。もちろん他の目線もありますが、今回は話をシンプルにしてわかりやすくするために「従業員目線」に絞って考えてみたいと思います。

 

では、あらためて「従業員目線」とは何か。

 

それは、経営者に対する本音の不満と愚痴を知ることです。決して社長の耳に届くことのない(目にも映らない)、従業員たちの本音の不満と愚痴をしっかりと把握しなければなりません。

 

とはいえ、隠れてしまう情報をいつどのようにして把握すればいいのか?

 

社長自らが聞き込みをするわけにもいきませんので、おすすめしたいのは社内にスパイ的人材を介入させることです。

 

それがマネジメント気質の旺盛な人材であればうってつけの役割です。

 

忘れてはならないのは、目的は「正しい状態把握」です。

 

実のところ、何に不満を感じ、どのような愚痴が水面下で交わされているのか。また、どのような不安を感じているのかなど。

 

あくまでも 目的は 社内環境を整える施策であり、誰かを陥れるためだとか、社長自身の点数稼ぎのためなど、邪(よこしま)な考えでスパイ施策を打たないことが鉄則です。

 

もし仮にスパイ施策が誰かに気づかれた場合でも、かえって皆から高評価を得られるように講じるのが経営の手腕的には上策というものです。

 

稲森和夫氏が残された言葉にもあるように、「私心なかりしか、動機は善なるや」にも太く通じる内容です。

 

一つ、実例を使ってお伝えしましょう。

 

大阪の東部に本社を構える製造会社で 従業員規模は30名ほど。業績は安定しているものの、なかなか人材が育たず、3~5年前後勤務すれば独立心の強い人ほど愛想をつかして辞めていくような状況でした。

 

このような状況下、経営者は 福利厚生の一環で月に一度、同(大阪東部)市内のスポーツ施設での運動とスーパー銭湯でのくつろぎを供与すればいいんじゃないかと思いついたようです。

 

月に1度、多い時には2度、従業員たちがそれぞれペアを組み、非日常的な交流も兼ねて 順番がめぐってきた当日は 強制的に15時終業とし、「くつろぎタイム」への参加を奨励していました。

 

また、市内の花火大会の日は、社長の住む高層マンションで花火を堪能できる懇親会も開催されていました。

 

一見、とても羨ましく、気の利いたことをされていると思いませんか?

 

ところが実は、私が介入してはじめて行った従業員たちとの1on1ミーティングにおいて、内容を秘密にすることを固く約束して実情を窺(うかが)うと、理由は様々ですが 実に7割以上の従業員が「苦痛なんです」と正直に伝えてくれました。残り3割の従業員も「そうしろと言うなら従いますけど、特段 必要とは思っていません」など、どちらにせよ積極的に参加している人は ほとんどいない状況でした。

 

ただ、社長の恩情は全社員がとても理解しています。しかし、「そこじゃないんです、社長!」というのが実情でした。

 

このような、経営者には決して耳に入らない小さなストレスは、従業員たち本人もさほど気にも留めていなかったとしても それ以外の要素までが積み重なった結果、離職を招く原因の一つとなることを経営者は理解していません。

 

社長が良かれと思い施してくれていることに、異を唱えることを憚(はばか)るのは当然のことです。

 

私の介入から約16ヶ月が経ったのち、結果的に多くの社内イベントは見直すことになりました。

 

誰も悪くありません。

ただ、経営者は独りよがりになりやすい立場、環境というだけです。

 

このような小さなストレスの温床となりがちな施策を調査し、実情を把握して、経営者を否定することなく環境を整えるスパイ活動は、事実として離職率を下げる効果があります。

 

このことは ほんの一例かつ 一部の内容にしか過ぎず、従業員たちが「実は……」と語れないまま放置されている本音の不満と愚痴は、従業員とその従業員の家族の数以上にあることを理解しておいたほうがよさそうです。

 

断っておきますが、従業員たちの都合や勝手気ままにさせることを奨励しているのではなく、経営者の耳に本音の不満と愚痴が届く仕組みがありますか、という問いです。

 

人事制度や目標管理制度などの 社内の機能的環境整備は業績に優先されると言っても過言ではありません。なぜなら、機能的環境は、愛社精神にも直接的につながる情緒的環境のあり方に大きく影響を与えるからです。

 

情緒的環境が殺伐とした状況では、従業員たちの自己効力感が育まれないだけではなく、「ここでは、これ以上の学びも成長も得られないのではないか」と、辞職する理由を助長する可能性があります。

 

本音の愚痴や不満などは、それを起点にして言葉を変えるだけで提案に変わります。その提案は期日を設けることで企画になり、企画は実行することで何かしらの成果に至ると理解するのが建設的で健康的です。

 

こうした愚痴から成果までの一連の流れを、仕組みとして構築する人材が経営者のそばにいますか?

 

未来に向かって成長を確信できるための 新しい社内環境づくりをはじめるには、社内環境の現状を正しく把握するための 社内スパイの配置がカギを握っています。

 

大切な従業員たちが、静かに去ってしまわないためにも、経営者が持つべき目線の従業員目線を考えるきっかけになれば幸いです。

 

参謀学Lab.研究員 青木 永一

このコラムの著者:

参謀青木 永一

参謀の特長
ベルロジック株式会社 代表取締役 経営学修士(MBA)メンバーの中でも、異色の経歴を持つ。 前職は、事業者向け専門の「ナニワの金融屋」であり、30代後半までの15年間の経験の中で、約500社を超える倒産と間近に関わってきた。 自称 マネジメント数学研究家(暇さえあれば、ビジネスと数学の交わり方をユーモアたっぷりに伝える工夫をしている)。