コラム

参謀 青木 永一

若手社員へのエール。ワクワクモンスターたちのやりがい商法に惑わされず、まずは武器を手に入れろ!

ワクワクするほうへ

 

「ワクワクするほうへ」。

 

人をその気にさせる、それっぽい言葉じゃないですか。

 

しかし、よく考えてみると この言葉には すっぽりと抜け落ちている言葉があるように思えませんか?

 

いや、意図的に隠されているのかもしれません。

 

言葉を受けとる側がまだ何者でもない場合には、こうした上滑りするような言葉は、かなり大きなリスクを負わせる方向への誘導になるのではないでしょうか。

 

「ワクワクするほうへ」って言葉自体は、とても素敵な言葉だと思います。でも、この言葉で周囲を煽(あお)る人は、あたり前のことですが 煽られた人に対して何の責任も持ってはくれません。

 

ときどき、ビジネスの世界へ挑むにもかかわらず、「ワクワクするほうへ」の言葉に煽られ、発作的な情熱で自分を奮い立たせて一念発起をした挙句、数年と経たないうちに「こんなはずじゃなかった……」と意気消沈する人たちを見かけます。

 

そのときになってはじめて、「ワクワクするほうへ」という言葉には「挑むに相応しい実力と武器を備えたならば」という隠れた前提があることを理解します。

 

そうなってからでは気付くのが遅いですし、いろいろな意味で残念ですよね。

 

発信者にクレームを伝えたとしても、「いや、そういう意味じゃなくて」、「子供じゃないんだから、それはあなたの責任で考えないと」となるのがオチですし、それは発信者の言い分が正しいです。

 

だから、「ワクワクするほうへ」という言葉を浅いところで切り取り、SNSなどで二次三時と利用し、浅はかな人をターゲットにしてフォロワーを増やそうと企むやりがい商法には騙されないようにしてください。

 

とは言え、学生気分が抜けきれない 20代前半までの若手社員などの場合だと 仕方がないのかもしれません。

 

隣の芝は青く見えちゃいますからね。

 

なので、目移りしがちな若手社員には老婆心からつい、「今は余計な事を一切考えず、目の前の業務に没頭して、実力の1.3倍は上回る実績を重ねてみようよ」と丁寧にかつ口酸っぱく伝えるのですが、それでもなかなか理解されないのが現実です。

 

やりがいなんてものは、言い換えるならば自分自身の深層に届く情報感度のことです。そのため、思考力や経験、情報感度が浅い時期に「ワクワクするほうへ」の言葉に感化されると、「どこかに自分の可能性が開花する、メルヘンのような世界がきっとあるはずだ」となってしまうのでしょう。

 

知らない世界にフットワーク軽く飛び込んでみて、実際にいろいろなものに触れるのは 学生時代でひとまずのところは終わらせておくのが自分自身への躾(しつけ)というものではないでしょうか。

 

深層にある情報感度を高めるには、主体的な姿勢で仕事に没頭し、突き詰めた経験を一定量重ねることです。さまよっているうちに、気付いたら他人から与えられていた、なんて類のものではありません。

 

自分の中にあるアンテナの高さや感度、つまり情報の把握と読む(解釈)チカラが必要なのですが、 そのためにはまず、没頭したと言えるだけの実績と努力することを惜しまないでもらいたいのです。

 

何度も何度も叱られて意気消沈したり、少し褒められて「よっしゃー」ってなる一瞬のハッピーを感じたり、初めての大きな挫折を感じたり、先輩や同僚に助けられて九死に一生を得たり、そのようなことを日々繰り返すことです。

 

それもせずに、「今じゃない いつか」「ここじゃない どこか」「自分には違う可能性がある」など、早々に言い訳を探すことが上手になってしまうと、もはや厄介者に成り下がってしまいます。そして、その残念な事実を 誰もあなたに直接伝えてくれません。

 

自分の未熟さを省みず、外側にやりがいを見つけようとする限りは何も見つけられないことを、聡明な人は心静かに理解しています。

 

ワクワクを探す旅に出て、ワクワクの実態を手に入れるには、知性と欲、実行力と自省力をしっかりと備えることです。

 

 

たたみかけのエール

 

あなたは、今の仕事で、何か一つでも自分の深層に届くやりがいを見つけられているでしょうか?

 

自分の力だけでは絶対に見ることができなかった景色を、今度はあなたが誰かを率いて見せてあげられるようになりましたか?

 

自分の視野があまりにも狭かったことに気づいて 愕然としたことは何度ありますか?

 

みんなと同じものを見ているはずなのに、自分の理解と感度の低さや表現の乏しさに茫然自失したことは何度ありましたか?

 

どのように自分を鏡に映せば もっとかっこよく映るかばかりを考えていませんか?

 

実はサボっていませんか?

 

実は志を見つけられていないのではないですか?

 

実は暇だったりしませんか?

 

全部、図星じゃないですか?

 

今はとにかく、会社があなたに何を期待しているのかについて、まずはきちんと理解することです。

 

そこに真剣に取り組み続け、実績を挙げてからワクワクを探すのが、ものごとの順序ではないでしょうか。

 

まずは相手(ここでは会社)を勝たせること、それが仕事というものです。

 

「ワクワクするほうへ」は正しい選択だと思います。しかし、何者でもない人が なんの武器もない状態で、目の前の仕事から逃げるための選択肢ではないはずです。

 

ワクワクモンスターの甘い誘導に惑わされず、実績を挙げる過程で、知性と欲、実行力と自省力という名の武器ぐらいは手に入れてから次のステージに挑んでください。

 

参謀学Lab.研究員 青木 永一

このコラムの著者:

参謀青木 永一

参謀の特長
ベルロジック株式会社 代表取締役 経営学修士(MBA)メンバーの中でも、異色の経歴を持つ。 前職は、事業者向け専門の「ナニワの金融屋」であり、30代後半までの15年間の経験の中で、約500社を超える倒産と間近に関わってきた。 自称 マネジメント数学研究家(暇さえあれば、ビジネスと数学の交わり方をユーモアたっぷりに伝える工夫をしている)。