コラム

参謀 青木 永一

スペシャリストとゼネラリストは優位性を問う対立関係にあらず

 

職業柄さまざまな業種の中小企業に対し伴走支援をしていますが、従業員数50名以下の規模の会社では、スペシャリストだけでは経営課題の解決を完遂できない ことが多いように感じます。

 

その理由を考えてみると、「別の課題との距離がとても近いから」の一言に尽きます。

 

スペシャリストが決して役に立たないわけではありません。

 

課題が広範囲にわたって散在する場合は、スペシャリストが一部の問題を経験と技を駆使してとことん改善したとしても、そこから派生した(そこに派生させた)別の問題との不整合がすぐさま生じ、たちまち機能しなくなることが多いのです。

 

わかりやすくするために極端な例えでお伝えすると、

営業力をさらに強化するために、社長がマーケティングの自称スペシャリストを見つけてきて、自社の営業に対し市場分析やその他さまざまな知見を駆使してスキル向上を図ったとしましょう。

 

その成果が早々にあらわれ売上が向上したとしても、しばらく時間が経つと顧客管理をはじめとするバックオフィス業務がガタガタと不穏な音を立てはじめる、なんてことが想像できます。

 

では、と業務オペレーションのスペシャリストを投入したとしましょう。

 

いろいろな手ほどきを受け、流行りのDX化を図り、不慣れなツールの扱い方やイレギュラー対応などまで手ほどきを受けるなど悪戦苦闘を経た末、結果的に業務の流れが若干スムーズになったとします。

 

しかし、社員たちの根本的なスキルやマインドが以前のままでは、時間の余裕ができても更なる改善や次のステージに向けた果敢な取り組みは自発的には生まれず、意見を求めても返す返事は「別にありません」と、何の課題意識も提案も生まれないなんてことはままあることです。

 

それならと、なにかしらの研修や講座など教育と称して外部から講師を招いたとしましょう。

 

しかし、研修や講座で得た知識の賞味期限は持って3日ほど、資料は一月も経てば行方不明、三か月後には存在すら忘れ去られるのが関の山でしょう。

 

次こそはと、人事コンサルタントを招き、目標管理などの人事制度をつくって……と、これ以上は切りがないのでこのあたりでやめておきます。

 

うんざり

 

スペシャリストが問題を撃ち抜ける射程距離や、必殺技のような打ち手の賞味期限が短くなりがちなことは想像がついたでしょうか。

 

再度お伝えしますが、スペシャリストが悪いわけではありません。

 

中小企業においては、問題の存在が数多く点在、混沌としており、各問題それぞれが一触即発といえるほど近距離で定位置にないことが問題なのです。部署間や人間関係などの間隔がとても狭く、情緒問題も絡まって頻繁に衝突事故が起こりやすいのです。

 

また、「私はこの業務だけをやっていればいい」で済むようなことは稀で、多くは1人が複数の役割を担うことは当然で、他部署からの依頼に応じてまさに東奔西走しながら、少数精鋭でどうにかこうにか日々の業務を執り行っているのが現実なのです。

 

ましてや、昨今のような 慢性的な人手不足では一層そのような状況が顕著ではないでしょうか。

 

このような場面では、スペシャリストよりもゼネラリストの存在が非常に重要となります。

 

では、ゼネラリストはこのような場面ではどのような対応をすべきなのか。

 

あくまで一例ですが、

「営業を刷新してほしい」、というオーダーが経営者から寄せられたときに、オーダーに『直接的に応えつつ』も真の問題の所在(教育システムの不在など)を熟考した上で、例えば職場の衛生的な環境にあたりをつけたりします。

 

その場合、事前に幹部社員たちとの協議を密に行い合意を得たうえで3S(整理・整頓・清掃)活動を行い、毎朝周辺地域の清掃までを行います。実はこれ、その後の施策(協議と学習を行う文化づくりなど)に好影響を与える布石となることが少なくありません。

 

また、他には軽微なオフィスのインテリアや朝礼のあり方を変えたり、ときには惰性で続けてきた習慣を一旦取りやめるなど、会社の空気感の刷新と同時並行して営業戦略へのアプローチに紐づけたりします。

 

さらに、タイミングを見計らい社労士などの専門職に協力を要請し、労務環境を整えつつ人事制度作りに取り掛かりはじめます。制度は「設計」と「運用」がつながるまでにかなりの時間を要するため、それまで各現場のスタッフたちと1on1ミーティングを根気強く行い、理解を促し、心情を慮ることなどに多くの時間を投じることになるでしょう。

 

そうこうしている中で、幹部社員たちに対しては学ぶ機会を設け、知性と欲を高めたうえで理想を語り合い、紆余曲折を経ながらも一念発起して自主的に作成してくれた「私たちの行動規範」が、全社的に無事受け入れられるようにと、各方面への根回しなどを行います。

 

いかがですか?

かなり面倒なことをしてますよね。

 

 

このように、散見される問題同士のつながりと、何が真因となっているのかを捉えてから、局所的な課題の息の根を止めるためにスペシャリストの力を借りるべきなのです。

 

上の例だと、当初のオーダーである「営業の刷新」に踏み込むことになります(優先課題は別だった、となることも多いです)。

 

まとめると、

顕在的な課題に対して解決させるのがスペシャリストであり、潜在的な課題を浮き彫りにさせてつながりを発見し、どのようにすれば解決できるのかをデザインするのがゼネラリストの役目なのです。

 

私の役目である中小企業の経営をマネジメントするということは、スペシャリストの技術と効果が最大限発揮されるよう、出番を上手にアシスト(演出)するのが役目であり、腕前が問われるところです。

 

そのためにも、ゼネラリストは広くそこそこ深い知識と技術を備えたうえで、ラストワンマイルを助けてくれるスペシャリストとの人脈が必要になります。

 

スペシャリストとゼネラリストは優位性を問う対立関係にはなく、より良い経営環境を創造するための協力的で建設的な関係であることをご理解いただく機会になれば幸いです。

 

参謀学Lab.研究員 青木 永一

このコラムの著者:

参謀青木 永一

参謀の特長
ベルロジック株式会社 代表取締役 経営学修士(MBA)メンバーの中でも、異色の経歴を持つ。 前職は、事業者向け専門の「ナニワの金融屋」であり、30代後半までの15年間の経験の中で、約500社を超える倒産と間近に関わってきた。 自称 マネジメント数学研究家(暇さえあれば、ビジネスと数学の交わり方をユーモアたっぷりに伝える工夫をしている)。