コラム

参謀 青木 永一

投げるな危険!相手が認識していない期待は組織の寿命を縮ませる!!

キャッチボールのルールを忘れた大人たち

 

野球に限らず、バスケットボールやバレーボールでも、練習や試合前のウォームアップではキャッチボールやパス練習を行います。

 

お互いに向き合い、それぞれにとって適切な距離感を保ち、相手が受け取りやすい場所と速度でパスを送ることが基本的なルールです。

 

自分と相手の状態を考慮しながら、自分の意思と相手に届いたボールの位置のずれを微調整し、意思疎通を図るのがウォームアップの役割です。

 

ところが、ルールを知らない、理解していても無視する大人たちが散見されます。相手にボールを投げる意思を伝えず、また、相手が自分に向かってボールを投げることを認識していないにもかかわらず、投げる側は「ボールを受け取ってもらいたい」、「受け取ってもらえるはずだ」という一方的な思い込みで投げつけることがあります。このような行為は場合によっては犯罪になりかねません。

 

実際にこのようなケースが存在するか疑問に思うかもしれませんが、ビジネスの現場では無自覚に頻繁に起こっている行動です。

 

 

投げるな危険!認識していない期待はキャッチできない!!

 

後輩や同僚に仕事を依頼する場面は少なくないはずです。そのような場面で、人を巻き込むのが上手な人ほど、説明のための言葉と手順を組み立てることに時間を費やしています。そのうえで、<説明→相手の認識と理解の確認→納得を得てもらう>という一連の過程を経ます。

 

この一連の過程のうち、相手の認識と理解の確認までは説明する側の責任です。そのため、相手の理解を確認できるまでは粘り強く伴走しなければ責任を果たしたことになりません。

 

正しく理解してもらうためには、その前提となる自分と相手の双方の認識を揃える必要があります。そのためには、思考停止ワード(ビッグワード)を使用しないことが重要です。

 

思考停止ワードとは、たとえば「明日までに」「なるべく早く」「たくさん」といった言葉で、自分と相手の認識に差が生じやすいものを指します。

 

例を挙げましょう。

皆さんは、「明日までに」と伝えられた場合、具体的にいつまでを考えますか?

 

日付が変わるギリギリまで?

明日の始業まで?

明日の夕方17時まで?

 

多くの場合、認識はバラバラになると思います。

 

同様に「なるべく早く」についても一度社内で確認しあってみてください。

 

コミュニケーションミスを防止するためにも、このような場合には日付と時間、理由を説明することが組織における正しいコミュニケーションとなります。

 

認識がズレたままで期待を投げる行為は、事故につながる確率が高まることはご理解していただけたでしょうか。

 

※余談ですが、相手が認識していない「企画」はサプライズと呼ばれ、よほどのことがない限り、相手からはとても喜ばれる演出です。構造的にはよく似ていますが、結果が真逆であることは説明するまでもないことです。

 

キャッチボール

 

期待をかけても期待はしない

 

誰しも得手不得手はありますが、業務における苦手な分野では、一定量の経験を主体的に重ねることで部分的にでも克服させる責務があります。先輩や上司、ときには同僚の指導と指摘を受け入れ、確認と修正を怠らないことが苦手を克服するには欠かせないプロセスです。

 

そのような場面で、先輩や上司は「期待をかける」ことはしても、「期待しない」ことが肝要です。言葉の微妙な違いですが、人材を活かし続けるためにはそれぞれが異なることを理解しておくことが、人材マネジメントにおいては肝となります。

 

「期待をかける」とは、あらゆることが自分の思いどおりにならないことを前提にした、もしものときの備えを講じたうえでのお守り的な行為です。

 

商売繁盛や無病息災を願う「願かけ」と似ています。願いはしても、それだけで期待どおりに叶わないことは理解しているはずですよね。

 

そのためにセーフティネットや、次の一手に備えた準備をはじめることが、のちに説明する「期待する」との明確な差になります。

 

人材だけに限らず、マネジメント全般のあり方としては、懸命な判断と行動といえるのではないでしょうか。

 

 

一方で「期待する」とは、あらゆることが自分の思いどおりにならないことを前提にしない、もしものときの備えを放棄した責任転嫁と呪いの行為です。

 

もし仮に、相手が期待したとおりにできなかったとき「期待してあげたのに」「機会を作ってあげたのに」「幻滅させられた」などのような、相手本人の心情を慮ることなく、呪いの言葉と不満の感情を露(あらわ)にさせる危険性があることはご理解いただけるのではないでしょうか。

 

これでは、信頼関係や相手と自分の両方の精神衛生までも壊しかねないため「期待しない」が大切です。

 

 

願掛け

 

「期待していない」と「期待しない」の明らかな差

 

誰かを前にして、「あなたには期待していない」と言い放つことがいかに卑劣な行為であるかについては、説明するまでもありません。

 

発言の真意は「勝手な期待」が裏切られた、または「過剰な期待」が満たされなかったことに対する被害者意識をこじらせた報復の意図があると断言します。す。

 

以上のように「期待していない」は、自分のマネジメント能力と技術の不足を言葉巧みに相手の責任にすり替える呪いの言葉であり、相手の状態を理解するためのコミュニケーションを怠った言い訳なのです。

 

一方で、「期待しない」は、自分自身へ唱えるおまじない的な言葉です。過剰になりがちな相手への期待を慎むため、相手とのコミュニケーションを怠らないための戒めの言葉です。

 

 

ライトな協議文化が組織の生命線となる

 

皆さんの会社では、以下のような言葉を遠慮なく先輩や上司に伝えることができますか?

 

「20分ほど時間を取ってください」。

 

「ブレイクセッションしましょう」。

 

「1on1できますか?」。

 

表現はさまざまですが、要するにライトで手短なミーティングを積極的に取れることが、方向性と期待値の是正や擦り合わせにとても役立ちます。さらには、小さな段階での人為的ミスの発見、関係性の誤解などを是正する効果があるため、組織の生命線となることは間違いありません。

 

このような、企業の文化づくりは、具体的な「行為」を意識的かつ、主体的に、長期間にわたり積み重ねた結果の社内の共通認識のことであるため、骨の折れるプロセスが必要になりますが、「あるとき」と「ないとき」がその後の組織の存続に明暗を分けると言っても過言ではありません。

 

 

締めくくり

人材不足の昨今、人材を減らさないために今私たちができる具体的な企業努力とはなにか。

 

古参にありがちな、「伝えたはずだ」「言っただろ」「何度言えばわかるんだ」のような、自分にミスや不足がないことを前提にした時代錯誤なコミュニケーションを改めることです。

 

そのうえで、相手が期待の内容と水準を理解できるための説明を、手短に何度も丁寧に行うことです。

 

そうすることで、相手が与えられた役割において意味を理解し、納得感を得れば、自ずと「主役」意識が芽生え、成長の階段を自らの意思決定で昇りはじめるのではないでしょうか。

 

企業の生命線とは、マネジメントの機能として、これらの演出を講じることでもあると考えています。

 

参謀学Lab.研究員:青木 永一

このコラムの著者:

参謀青木 永一

参謀の特長
ベルロジック株式会社 代表取締役 経営学修士(MBA)メンバーの中でも、異色の経歴を持つ。 前職は、事業者向け専門の「ナニワの金融屋」であり、30代後半までの15年間の経験の中で、約500社を超える倒産と間近に関わってきた。 自称 マネジメント数学研究家(暇さえあれば、ビジネスと数学の交わり方をユーモアたっぷりに伝える工夫をしている)。