コラム

参謀 青木 永一

ヒトと経営の間の悩みと一縷(いちる)の望みの模索

はじめに

経営資源には「ヒト・モノ・カネ」という分類があり、最近では「情報・時間」や「知的財産」といった詳細な要素が加わっています。

 

これらの経営資源を戦略的に活用することは経営の重要な責務ですが、特に「ヒト」にまつわる悩みは、多くの経営者やマネジャーにとって永遠の課題ではないでしょうか。

 

 

ヒト・モノ・カネのうち、教育によって育つのは?

総務省統計局による調査によれば、日本の25歳から59歳までの男女の国民の学習時間は、一日平均で約8分とされています。多忙などの理由があるにせよ、学習のために時間を一切取らない(取れない)人が多いことが示唆されます。

 

また、会社が従業員に対して教育機会を提供できていない可能性も十分に考えられます。

 

経営資源の中で、教育によって発展するのは「ヒト」だけであるため、会社が成果を最大化するためには、設備や開発などの「モノ」への投資に加え、「ヒト」に対する能力開発や育成にも十分な時間と資金を充てることが重要になります。

 

 

期待値、示していますか?

皆さんの会社では、会社側から従業員に対し成果の期待値を具体的に示していますか?

 

成果の源泉が設備的な「モノ」ではなく、「ヒト」である場合、能力を最大限に発揮するには、成果に直結する「行動」に対し、期待値を示す必要があります。

 

ただし、「売上」のような結果的な成果は、当人がコントロールできないため再現性が保たれないだけではなく、成長や安定も実感しづらいものです。そのため、成果に直接つながる「行動」に対して期待値を示すことが、育成では重要になります。

 

そのうえで、動機づけとなるよう、行動の意味付けと全体像の中での位置づけを理解させることです。

 

まず、ここまでお伝えした環境とプロセスが整えられていることを前提に、当人の企業人としての自覚が芽生えはじめるのだと考えています。

 

自覚は、「持て」と言われて即時的に持てるものではなく、立場と役割に応じた行動と工夫の積み重ねの過程で育まれるものです。そのため、企業側が果たすべきマネジメントとして、1on1ミーティングを定期的に予定し、コンディション確認をはじめ、会社が示した期待値の現状について確認と検証、修正を行うことが重要になります。

 

ですが、育成が計画的に、そして理想どおりに進むならば誰も苦労はしないはずです。多くのマネジャーが育成で苦労する理由は、こちらの期待に反して目の当たりにする現実が、時間的にも成果的にも大きく乖離するからではないでしょうか。

 

一縷の望み

 

 

ビジネスにおける教育について

経営資源の中で、教育によって発展するのは「ヒト」だけであるとお伝えしましたが、そもそも人って変わると思いますか?

 

個人的には、「変わるもの」と「変わらないもの」があり、その区別と見切りが肝要ではないかと考えます。

 

ビジネスの場面において、教育する相手に求めるものは、あくまで成果につながる「行動」の変化です。「やる気」のようなマインドではありません。

 

マインドは、行動変化の過程で受け身的に変わる傾向が強いため、こちらが順序として先に求めたとしても、本人すらコントロールすることが難しく、求められる期待には応えづらいものです。

 

この点の区別と見切りを理解しなければ、時に憤りや怒りなどの個人的な感情によって、マネジメントにとっては致命的な冷静さを失いかねません。

 

先に、小さく行動を変化させることができれば、相手の意識は徐々に変わる確率が高まります。変化の早い遅いは個人差がありますが、その後、行動と意識が相互に補完しあうようになれば、育成は半分成功したも同然です。

 

以上を踏まえ、マネジメントする側は相手の成熟度に応じて【指示型→説得型→参画型→委任型】と段階に応じて態度を変化、調整できるスキルが求められます。

 

指示型から委任型までのセオリーについて、いちいち説明をする必要はないと思いますが、説得型以降においては育成側が特に意識しておきたいことがあります。

 

それは、相手の「主役感」を段階的に満たすことです。そのためには、相手に考えさせ、稚拙さを想定、許容しながら意見を求め、理解を示しながら合意形成において相手の参加割合を増やすことです。

 

この点、マネジメントに関わる多くの人が金言としている、山本五十六氏の言葉、「やってみせ、言って聞かせて……」に続く二段目、「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず」が思い返され、あらためて強く頷かされます。

 

ちなみに三段目は、「やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」です(耳の痛い言葉です……)。

 

一方で、人は「慣れ」から次第に「ダレる」ことが常であるため、人材育成だけに限らず、「ヒト」に絡むマネジメントに関わる者は「性悪説で考え、性善説で応対する」を訓示として心に秘めておくことも重要ではないかと考えています。

 

余談ですが、このように書いている私自身、実は現場ではうまくいかないことのほうが多く、悪戦苦闘する毎日です。マネジメント技術の拙(まず)さの反省と総括のため、このように言語化することで一縷の望みを模索しています。

 

 

おわりに

あくまで、企業と「ヒト」は契約の関係であることを正しく理解し、そのうえで関係を良好に保つには、企業側から期待値を明示することに加え、教育の機会を与えることが条件です。

 

人材が「人財」に至る道のりには、さまざまな仕掛けと仕組み、そして育成を担う者の技術力と匙(さじ)加減が重要となります。

 

マネジメントに関わる方々においては、気負い過ぎて完ぺきを追求することなく、また相手に求めず、相手の主役性が湧き立つ機会の追求をあきらめずに頑張っていただきたい、強くそう思います。

 

参謀学Lab.研究員 青木 永一

このコラムの著者:

参謀青木 永一

参謀の特長
ベルロジック株式会社 代表取締役 経営学修士(MBA)メンバーの中でも、異色の経歴を持つ。 前職は、事業者向け専門の「ナニワの金融屋」であり、30代後半までの15年間の経験の中で、約500社を超える倒産と間近に関わってきた。 自称 マネジメント数学研究家(暇さえあれば、ビジネスと数学の交わり方をユーモアたっぷりに伝える工夫をしている)。