コラム

参謀 青木 永一

沈黙の警告~経営者が聞くべき「炭鉱のカナリア」の声~

歴史から学ぶ「炭鉱のカナリア」の教訓

 

「炭鉱のカナリア」とは、かつて炭鉱作業員が地下で無色無臭の有毒ガスの存在を知るために用いたカナリアを指します。この小鳥が歌を止めたり、命を落としたりすることで、炭鉱内の危険を示し、作業員たちの命を守る重要な役割を果たしました。

 

経営の世界においても、「炭鉱のカナリア」のように早期にリスクを感知し、組織を守る役割を持つ有能なマネジャーが不可欠です。これらのマネジャーは、見えない危険やチャンスを察知し、迅速に行動を起こすことで、企業の安全と成長を支えます。

 

このコラムでは、そうした価値あるマネジャーの育成の重要性と、彼らを育て上げるための具体的な方法を探ります。

 

 

有能なマネジャーに求められる4つの重要条件

 

有能なマネジャーは、単にチームを管理する以上の役割を担います。組織のビジョンを実現するために、主に以下に示す4つのスキルを備えていることが必要になります。

 

1.感受性と洞察力

人の行動と精神の微細な変化を見逃さず、その背後にある可能性を読み解き、問題の未然防止やチームの生産性向上に努めることが求められます。

 

2.コミュニケーション能力

オープンな対話を通じてチーム内の信頼を築き、意見を聞き、理解し、建設的なフィードバックを提供することが求められます。

 

3.問題解決能力

たとえば、売上減少などの複雑な問題に直面した場合、有能なマネジャーは市場分析、顧客フィードバックの収集、競合他社の戦略の評価などを行い、効果的なマーケティング戦略を立案します。分析的思考を駆使し、適切な解決策を選択し実行することで、売上を回復させる可能性が高まります。

 

4.リーダーシップ

リーダーシップの典型例として、新しいプロジェクトを成功に導くマネジャーが挙げられます。彼らは明確なビジョンを提示し、チームメンバー一人ひとりの能力を把握し、それぞれの強みを活かせるように動機づけられる方法を常に模索します。

 

 

有能なマネジャーを内部から輩出する

 

経営者の多くが、自社に理想のマネジャーがいないという現状に直面しています。特に中小企業では、初めから全ての条件を満たした人材が応募してくることはほとんどありません。

 

この問題の根本にあるのは、有能なマネジャーを育成するための環境が整っていないことです。これがまさに、組織内に満ちている「有毒ガス」であり、その存在に気づかず、対処する方法を知らないことが、炭鉱のカナリアの鳴き声が止んでしまっている状態に等しいのです。

 

本コラムで引き合いに出した「炭鉱のカナリア」は、経営者が自らの組織内で有能なマネジャーを育成する仕組みや取り組みが存在するかどうかに目を向けるべきであることを示唆しています。有能な人材を外部から引き寄せることばかりを期待するのではなく、自社でそうした人材を育て上げるための環境を構築することが、経営者にとっての最大の責任です。

 

「有能な人材が来ない」「人材が育たない」と嘆く前に、組織内に潜む「有毒ガス」を察知し、清浄な空気を取り戻すための具体的な行動を起こすべきです。経営者が炭鉱のカナリアの声が鳴り止んでいないかに最大限の注意を払い、有能なマネジャーを育成する環境を確立することが、組織の持続的な成長と成功には不可欠です。

 

では、有能なマネジャーを育成するためにどのようなスキルアップ方法が必要か、具体的な例を以下で紹介します。

 

 

有能なマネジャーを育成するための効果的なスキルアップ5選

 

マネジャーのスキルアップは、組織の持続可能な成長と直結しています。そのため、経営者はマネジャーが自己成長を遂げるための機会を積極的に提供することが重要です。ここで紹介する5つのスキルアップ方法は、有能なマネジャーを育てるための効果的な方法の一例です。

 

1.継続的な学習と自己改善

オンラインコース、ワークショップ、セミナーを通じて多面的な知識修得を絶やさないことです。同時に、自己反省を習慣化し、自身の弱点を自覚し、克服するための具体的なプランを作成します。

 

2.メンタリングとコーチング

経験豊富なメンターやコーチから指導を受け、彼らの知識と経験を学びます。また、自らもメンターやコーチとして後進を指導することで、リーダーシップスキルを磨きます。

 

3.フィードバックの積極的な求め方と提供

定期的に上司や同僚、部下からフィードバックを求め、自己改善のためにそれを活用させることです。また、部下への建設的なフィードバックを適切に提供することで、コミュニケーション能力を高めます。

 

4.ケーススタディとシミュレーション

実際のビジネスケーススタディやシミュレーションを通じて、複雑な問題解決の疑似的な経験を積むことです。これにより、理論的な知識を実践の場で活用する能力を養うことができます。

 

5.ピアラーニングとネットワーキング

ピアラーニングとは、同じレベルの職位や経験を持つ他のマネジャーと知識や経験を共有する学習方法です。このアプローチを通じて、マネジャーは互いの成功事例や失敗から学び、新たな視点や解決策を得ることができます。また、業界内外のネットワーキングイベントに積極的に参加することで、異なる組織や文化からのインサイトを収集し、自身のマネジメントスタイルや戦略を拡張する機会を得ることができます。

 

ピアラーニングセッションを定期的に設定したり、業界関連のワークショップやカンファレンスに参加することは、マネジャーが自身のスキルセットを広げ、現代のビジネス環境で直面する複雑な課題に対してより効果的に対応できるようになるための効果的な方法です。さらに、これらの活動は、有益な専門家ネットワークを構築する絶好の機会にもなり、将来的なキャリアの機会やコラボレーションへの扉を開くことができます。

 

有能なマネジャーの育成は、適切なスキルアップ方法に取り組むことでのみ実現可能です。しかし、企業がそのための体制を整えず、個人も自己向上に努めなければ、社内環境は次第に有毒なガスが満ちた「炭鉱」のように悪化していくでしょう。この状態は、組織にとって警鐘を鳴らす「炭鉱のカナリア」の鳴き声がすでに止んでいることに他なりません。

 

経営資源である「ヒト・モノ・カネ」の中で、唯一教育によって成長するのは「ヒト」です。成果を得るまでには時間がかかる人材育成に早急に取り組むことは、将来への投資であり、組織にとっての生存と発展の鍵を握っています。

 

 

おわりに

 

経営者がそばに置くべき「炭鉱のカナリア」、つまり有能なマネジャーは、組織の未来を守るための重要な資産です。彼らのスキルと資質を磨くことは、組織全体の成功に直結します。経営者として、これらのマネジャーを育成し、サポートすることに投資することの価値は計り知れません。経営の根幹を支える「炭鉱のカナリア」の警鐘が鳴り止んでいないか、一度立ち止まり、静かに冷静になって真剣に耳を澄ませてみてください。

 

参謀学Lab.研究員 青木 永一

このコラムの著者:

参謀青木 永一

参謀の特長
ベルロジック株式会社 代表取締役 経営学修士(MBA)メンバーの中でも、異色の経歴を持つ。 前職は、事業者向け専門の「ナニワの金融屋」であり、30代後半までの15年間の経験の中で、約500社を超える倒産と間近に関わってきた。 自称 マネジメント数学研究家(暇さえあれば、ビジネスと数学の交わり方をユーモアたっぷりに伝える工夫をしている)。