- 参謀の特長
- ベルロジック株式会社 代表取締役 経営学修士(MBA)メンバーの中でも、異色の経歴を持つ。 前職は、事業者向け専門の「ナニワの金融屋」であり、30代後半までの15年間の経験の中で、約500社を超える倒産と間近に関わってきた。 自称 マネジメント数学研究家(暇さえあれば、ビジネスと数学の交わり方をユーモアたっぷりに伝える工夫をしている)。
コラム
参謀 青木 永一
その目標、なぜその数字?~構造なき指示が組織を迷わせる~
「頑張っているのに、なぜ成果が出ないのか」
そんな問いに対し、今もなお精神論や努力の量だけで答えようとする風潮は根強く存在しています。
もちろん、努力や意欲は否定されるべきものではありません。けれども、どれだけの努力を、どこに、どのように、どれくらい注ぐかという視点がなければ、成果につながらないのもまた事実です。
ここで言う知性とは、「状況の因果関係を見抜き、構造を理解し、仮説を立て、振り返りを通じて行動を修正していく力」を指します。つまり、「何を、どう考え、どう動くか」という思考の質とプロセスそのものです。
私はこの「知性の総和」こそが、組織の行動の精度や持続力を決める力=組織力だと考えています。
もちろん、組織力には「関係性」「行動力」「継続力」など他にも大切な要素があります。
ちなみに、組織力を構成する要素は、組織の個性やフェーズによって異なります。そのため、これらの要素それぞれの優先順位と重みづけを見定めることは、組織として何を大切にし、従業員に何を求めているのかというメッセージを明確にする行為でもあります。
本コラムにおいては、「知性」にフォーカスし、私なりの考察をお伝えしたいと思います。
目次
多くの現象は“結果”である
ビジネスの現場で目にするものは、ほとんどが “結果” です。
たとえば、ある社員の売上不振、顧客離れ、リピート率の低さ、上司の言動、オフィスの空気感。それらはすべて、何らかの原因や構造の結果として現れている“現象”に過ぎません。
にもかかわらず、表面的な現象だけを見て「頑張れ」「もっと意識を高めろ」と指導してしまうことが、少なくありません。
努力は必要ですが、方向や方法を誤れば、成果には結びつかないのです。
“目標”には構造がある
売上という目標は、表面的には「数字」として語られがちですが、実際にはその背景に、“数式” としての構造が備わっているべきものです。
つまり、どんな要素の組み合わせがその数字を形づくっているのかを理解しなければ、行動の方向性を見出すことはできません。
たとえば、売上という指標は、次のような要素の掛け合わせで捉えることが一般的です。
売上 = 顧客数 × 購入率 × 単価 × 購入頻度
これはあくまで一例ではありますが、もっともよく知られた基本形といえるでしょう。実際には業種やビジネスモデルによって、他の要素が加わることもあります。
この構造を理解しないまま、たとえば「売上をもっと上げよう」「前期より増やしたい」などとだけ伝えられても、現場では“どこをどうすればいいのか”が見えず、動きようがありません。
「その数字、どうやって決めたんですか?」──
そんな疑問に対して、「社長の期待値です」「前年より頑張ってほしいから」といった感覚的な説明で終わってしまう場面も、残念ながら少なくありません。こうした納得感の乏しい目標設定は、組織内に静かな不信感を生み出します。
とりわけ中小企業においては、経営者の感覚値やトップダウンによって目標が決まることも多く、現場との認識のズレが放置されがちです。
数式的な裏付けを意味する「構造の提示」がなければ、目標は “命令的な指示” として受け取られ、主体的な行動につながりにくくなってしまいます。
“戦略的な努力” をデザインする
目標の構造を “数式” として分解できれば、それぞれの項目ごとに具体的な打ち手を考えることができます。
たとえば、こんなふうに整理してみるのも一つの方法です。
- 顧客数を増やす → 認知施策、SNS、広告
- 購入率を上げる → 提案力、導線改善
- 単価を上げる → メニュー設計、オプション提案
- 購入頻度を上げる → リピート施策、サブスク導入
このように構造を意識してもう一歩踏み込んで考えると、どこに注力すべきかという行動の選択肢と優先順位が、より具体的に見えてきます。
これは、ジムで筋トレをする際に「どの筋肉を、どの種目で、どれくらいの回数と負荷で鍛えるか」を意識するのに似ています。何も考えずに動けば、ただ疲れるだけで、理想の体形にはなかなか近づきません。
あるいは、建築で言えば、いくら立派な素材(=努力)を用意しても、設計図(=戦略)がなければ、家は建たないどころか、崩れてしまうかもしれません。
だからこそ、目標の「構造」を正しく捉えることは、行動を成果につなげるための出発点なのです。頑張りというエネルギーを「どこに・いつ・どれだけ」注ぐべきかを見極める。それこそが、“戦略的な努力” のデザインに他なりません。
知性とは、優しさのかたちでもある
「とにかくやってみろ」「失敗を恐れるな」といった精神論が、人を勇気づける場面はたしかにあります。感情や勢いが、第一歩を踏み出すための原動力になることもあるでしょう。
しかし、努力を継続し、成果へと結びつけていくには、感情だけでは足りません。本当に結果を出すには、「構造を理解し、仮説を立て、検証し、修正していく」という知的な営みが欠かせないのです。
それは決して、冷たい理屈の世界ではありません。むしろ、頑張る人の努力が報われるようにするための、優しさに満ちた方法論だと私は思います。
「感情で動き、知性で進む」
このバランスこそが、組織にも個人にも、持続可能な力をもたらすのではないでしょうか。
「知性の総和」が、組織の成長を決める
組織の成果は、そこに属する人たちが「どれだけ構造的に思考し、動けるか」にかかっています。
私は、組織とは、所属する人々の “構造的な思考力” の合計によって、その可能性も限界も決まるものだと実感しています。
もちろん、すべての人が目標の裏側にある構造を完全に理解する必要はありません。それぞれが役割に応じて理解を深めることで、組織は十分に機能します。
とはいえ、組織のなかに一人でも、目標の背後にある構造理解をもとに再定義・再構成し、それを他者と共有しながら行動を導き、実行フェーズに橋渡しできる “知的介在” ができる人材がいれば、チームの意思決定や改善のスピード、精度は大きく変わってきます。
そのような人材の有無が、組織の成果に決定的な違いをもたらします。
おわりに
あなたの目標にも、きっと “数式” があります。
がむしゃらに頑張る前に、一度立ち止まって、その数式を捉えようと試みてください。そこに、あなたがもっと成果を出すための突破口があるかもしれません。
「構造を見抜く力」は、個人にも組織にも、静かに、しかし確実に変化をもたらします。それは、日々の仕事の中で少しずつ鍛えることができるスキルです。
まずは、目の前の目標を「数式」に分解してみるところから始めてみませんか。
その視点がチーム内で交わされるようになれば、「数式を読み解くチカラ」は、きっとこれからの組織にとっての “共通言語” として育っていくはずです。
参謀学Lab.研究員 青木 永一