コラム

参謀 横山 研太郎

2000万円問題から学ぶ、誤解を招かない目標設定とは

会社全体や所属部署で目標を設定したものの、なかなか成果につなげられないということは、多くの人が経験しているのではないでしょうか。また、成果が出たとしても、こちらの望まない手段が取られていることもあるでしょう。

この問題は、目標を伝えるときに、そうすべき理由や具体的な行動方針を現場が理解していないことで発生します。

実は、今年の大きなニュースでも同じことが起きています。その例を使って、解説しましょう。

 

 

人を動かすには動機づけが必要だが…

 

組織を動かすためには、メンバーに行動してもらわなければなりません。

何も指示しなくても、全員が自ら考えて適切に行動してくれるのであればいいのですが、そういった人は多くないのが事実です。

だからこそ、チームを管理する目標が必要です。

 

ただ、厳しい数値目標を与えているだけでは反発が予想されます。かといって、甘くしすぎるわけにもいきません。

そこに、「なぜそうすべきなのか」という理由があってこそ、メンバーが納得することができ、目標達成への動機づけがなされるでしょう。

 

 

「2000万円問題」でも同じことが起きていた

 

2019年に世間を騒がせた「2000万円問題」。この背景にも同じことが起きていました。

「2000万円」という極端な情報によって、金融庁・国への批判や反発が強くなったのは記憶に新しいことでしょう。

 

このようなことになってしまったのは、方針自体は採るべきものであったにもかかわらず理由や根拠が伝わっていたかったため、「国民に動機づけできていなかった」ことにあると考えられます。

 

 

2000万円問題まで、国はメッセージを発信していたが…

 

日本が低金利・低成長時代になり、高齢化も進行することで、国民の老後生活が厳しくなってくることは20年以上前から予想されていたことです。

そのため、国は「貯蓄から投資へ」というスローガンを20年ほど前から掲げています。

 

1999年前後の「金融ビッグバン」の時期には、株式売買手数料が自由化され(1999年)ました。

その後も、確定拠出年金制度(2001年)、株式譲渡益の軽減税率導入とその期間延長(2003年)、NISA制度(2014年・同時に軽減税率打ち切り)、つみたてNISA制度(2018年)と、さまざまな「多くの人に投資をしやすくするための仕組みづくり」をしていました。

 

しかし、こういった制度をきっかけに投資を始めた人は多いのですが、「貯蓄から投資へ」というスローガンの「なぜそうすべきなのか」という理由を理解していた人はほとんどいなかったのが現実です。

 

国は、将来的に年金の支給額を目減りさせなければならないことがほぼ確実だったため、年金支給額についての「マクロ経済スライド(※1)」も導入しています。

制度が導入されたのは2004年のことですが、初めて適用されることになった2015年まで、その存在すら知らないという人がほとんどでした。

 

※1 それまで年金額は物価水準に合わせていたが、物価が上昇しても、それより小さい幅でしか年金を上昇させないようにする制度。物価上昇に伴い年金の支給額が目減りすることになる。

 

 

ようやく「数値と理由」で明確なメッセージを出した

 

国がこういった取り組みを20年間続けてきたにもかかわらず、国民のマインドは変わりません。さすがに明確なメッセージを出さなければならないと感じたのか、金融庁が報告書(※2)を発表しました。

 

報告書には、「今の若い人は、将来に備えて行動しなければならない」ということが、数値や理由を挙げながら詳細に書かれています。

ここまでしてようやく注目が集まりましたが、突然「投資をしなさい」と想定外の内容を突きつけられて多くの人が困惑してしまい、2000万円問題へと発展してしまいました。

 

※2金融庁「高齢社会における資産形成・管理」https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf

 

 

2000万円問題から学ぶべきことは?

 

2000万円問題に至るまで、国は「①スローガン」を掲げ、「②仕組み・制度」を充実させ、「③最後に明確なメッセージ」を出しました。これを会社での行動におきかえてみるとどうでしょうか。

 

①スローガン

「みんながんばろう!」という程度にしか受け取られないあいまいなキャッチフレーズを作ったり、何をどうすればいいのかが全くない目標を設定したりしている

②仕組み・制度

新製品を次々と作り、社内の組織改革を進める。ただ、実行するだけで、なぜそのようにしているのかは伝えていない(現場の解釈に任せている)。

③最後に明確なメッセージ

会社が進める戦略の解釈を伝えていなかったが、突然、現場に会社の考えている具体的な方針を伝える。しかし、その方針は現場の解釈とは大きく乖離していた。

 

これでは組織がまとまり、適切に行動できるようには思えません。

全員をまとめる戦略やスローガンなどと一緒に、なぜそうするのか、どうやって実現するのかといった具体的なところまで「最初から」伝えていくべきではないでしょうか。

 

 

まとめ

 

目標を定める際には、なぜそのようにしなければならないのかという理由を伝えましょう。

理由が伝わっていない状態を放置してしまっていると、不適切な行動をとるメンバーに「おかしい」と指摘しても、「そんなことは聞いていなかった」と反発を招きかねません。

 

組織のリーダーは、メンバーに「適切に」行動してもらうことが重要です。

リーダーは、メンバーが進むべき方向性を初めから示すように心がけましょう。

このコラムの著者:

参謀横山 研太郎

参謀の特長
ねこのて合同会社 代表 資産運用のアドバイスを柱とするファイナンシャルプランナー、保険代理店、金融商品仲介業