コラム

参謀 青木 永一

数字は苦手は嘘 !? 数字と仲良くなるための取り扱い説明書

「数字は苦手です」

「数字の羅列を見ると、思考が停止します」

「数字よりも直感が大切だと信じたいです」

 

このように話すビジネスパーソンの多くは、算数や数学の授業で躓(つまず)いた経験を持っているのではないでしょうか。

 

無情にも、ビジネスの構築や経緯、成果はすべて数字で推し量られると言っても過言ではありません。

 

今回は、数字を苦手とするビジネスパーソンのために、数字に向き合うためのヒントになる考え方をお伝えします。

 

 

数字力を高める5つの力

 

普段、私たちが目にする言葉(数字以外)は、「読む」ことで一定の理解がなされますが、数字については「読む」だけでは理解しづらく、構成や比較、経緯などを「読む」、すなわち「考える」ことによってその意味を理解します。

 

数字を「読む」ためには、以下の5つの力を養うことがポイントだと、ビジネス数学インストラクター(BMI)の認定を行う公益財団法人日本数学検定協会は提唱しています。

 

  1. 把握力(データやグラフの意味を的確に理解する力)
  2. 選択力(数理的な根拠をもとに最適な選択肢を選ぶ力)
  3. 表現力(情報をわかりやすく表現し、相手に的確に伝える力)
  4. 予測力(数理的データをもとに、事業の将来像を見抜く力)
  5. 分析力(規則性や相関を見抜き、使えるデータへと加工する力)

いずれも、小学校で習う算数の四則演算と中学校レベルの数学で十分なものです。

 

 

 

何ごとも、まずは正しい把握から

 

一例ですが、「把握力」を試す問題をご紹介しましょう。

 

問:下記、①と②の違いを説明してください。

①「対前年比120%増」

②「対前年比 120%」

 

 

 

 

いかがですか。

両者の違いを正確に説明できましたか?

 

プレゼンの場面で、間違えている方をよく見かける表現です。

 

①は、前年に対して2倍と、さらに2割の増加を意味します。(前年を100とした場合220)

②は、前年分の2割の増加を意味します。(前年を100とした場合120))

 

これらは「細かいこと」でしょうか。

 

言葉としては少しの違いですが、意味と結果の数値が大きく異なります。認識が異なれば、コミュニケーションミスが生じることは必至であり、ビジネスとしては非常に拙(まず)い状況を生み出すことは容易に想像できます。

 

 

さらにもう一問、把握力の腕試しにお付き合いください。

 

問:「顧客満足90%」と表記されたサプリメントの広告から、どのような印象を持ちますか。

 

 

テレビCMや、折込みチラシなどでも非常によく目にするものです。

 

すごく好評な商品でリピーターが多いから信用できそう!

実際は何かウラがありそう・・・

 

印象の持ち方は人それぞれなので否定はしませんが、数学的な思考と対応が求められるところです。

 

例えば、パーセント(%)で表現された右辺の結果は、左辺が分数(割り算)によって導かれています。となると、分母と分子の構成要素が何かを知る必要はありそうです。

 

仮に、顧客満足度90%を構成する分母が「優良リピーター顧客の声」なのか、または「ランダムに選択した購入顧客の声」なのかによっては、同じ顧客満足90%でも、認識と印象に大きな違いが生じることはご理解いただけると思います。また、分母の量(人数)についても知ることができれば、より一層正確な情報を得ることができ、それによって持つ印象と商品に対する信頼度も異なるでしょう。

 

いかがでしょうか。

難しい公式が必要なものはありません。

 

日常的に「見る」「聞く」「話す」数字は、実数と割合の2種類だけです。数字の扱いを理解しているビジネスパーソンとは、数字の背景にある構成や構造を理解し、伝え方の工夫を行う姿勢を持つ人だと考えます。

 

数字が苦手な人の特徴とリハビリの方法

 

数字は大切だと、あらゆるところで異口同音に語られながらも依然として苦手とするビジネスパーソンがあとを絶たないのはなぜでしょうか。

 

学校教育の問題については別とします。

ここではビジネスの場面に限定して、以下の点を考えてみました。

 

  • 数字は実態の影であることの理解と、相互のつながりを想像する力が弱い。
  • 「数字」と「計算」の別を理解していない。
  • 「数字を伝える」ことに意識が向けられ「数字で伝える」工夫が足りない。
  • 算数や数学は社会人にとって必須である論理思考を養うものである認識が弱い。
  • 社会人になってから学び直しの動機と機会がない。
  • データを前にすると、目的を見失い溺れる。

 

挙げればキリがありませんが、まずはこのようなところでしょうか。

 

対処法としては、意識して曖昧な言葉を数字に置き換えてみるようにしてください。

 

「結構いい感じ」を数字で表現すると?

「コスパが悪い」を数字で表現すると?

「信頼関係」を数式で表現すると?

 

このような遊び感覚で、普段無意識に表現している言葉を、数字や数式に置き換えてみることで変化を感じられるはずです。

 

意識は「数字 ”を” 伝える」のではなく「数字 ”で” 伝える」こと。

 

目的として使うのではなく、手段として利用することを意識することです。

 

きっと、コミュニケーションの輪郭が変わることでしょう。

 

数字で伝えると説得力は格段に増します。ミスの生じた箇所と生じていない箇所との差が検証可能になります。数字を形作っている構成や経緯、からくりなどを理解すると数字に物語や意図が見えるはずです。

 

数字は実態を映し出す影であるため、主役になることはありません。

 

意志決定のための指標であり、根拠を伝える際の明瞭さを補完する役割を担います。

 

さいごに

 

冒頭に触れた、三者の会話を思い出してください。

 

「数字は苦手です」は、意識と認識のミスリードから生じた迷子状態です。

「数字の羅列を見ると、思考が停止します」は、目的を見失い取捨選択できず溺れている状態です。

「数字よりも直感が大切だと信じたいです」は、バランスを崩し片輪が脱線しているので事故必須の状態です。

 

「数字を理解する」

ビジネスパーソンならば避けて通れないものです。数字の裏側にある構成や構造、そして物語を理解し「数字で伝える」伝わるコミュニケーションで、より良い環境をつくっていただきたいと願っています。

 

 

 

このコラムの著者:

参謀青木 永一

参謀の特長
ベルロジック株式会社 代表取締役 経営学修士(MBA)メンバーの中でも、異色の経歴を持つ。 前職は、事業者向け専門の「ナニワの金融屋」であり、30代後半までの15年間の経験の中で、約500社を超える倒産と間近に関わってきた。 自称 マネジメント数学研究家(暇さえあれば、ビジネスと数学の交わり方をユーモアたっぷりに伝える工夫をしている)。