- 参謀の特長
- 人事系の業務全般を網羅。特に採用・人材育成に関する経験が豊富である。自らの経験と経営学を学んだ視点を活かし、経営戦略と人材マネジメントの高い次元での整合を目指す。
コラム
参謀 浅井 貴之
個人の成長を会社としてどう考えるか
人材育成は、採用・配置・評価・報酬などと並ぶ、人事の重要な役割の一つです。
しかし、人材育成の実態を見ると、「何となく流行っていることを実施している」「特に何もしていない」といったことも起きているのではないでしょうか。
また、そもそも「個人の成長は自己責任」という企業もあるかと思います。
会社として個人の成長をどう考え、また、どのように人材を育てていくべきでしょうか。
乱暴に分けると、人材育成はOJTとOff-JTに分かれます。つまり、業務を通じた育成と、研修などの業務以外の方法による育成です。
今回は、業務以外の方法による育成を中心にお話ししたいと思います。
目次
人材育成は戦略的な投資である
当たり前ですが、企業は経営目標の達成を目指して活動しています。
そのために、さまざまな経営資源をフル活用して毎日の事業を行っています。
人材についても、経営学では「Human Resource=人的資源」と表現するように、他の経営資源と同様に活用を考えます。
一般的な日本企業において、スキルが足りないとか、会社の方向性、風土と合っていないからといって簡単に退職させるわけにはいきません。(いわゆる日本的な労働慣行についてはまた別のコラムでお話ししたいと思います)
むしろ企業としては、個々人に不足しているスキルやマインドの積極的な充足を、経営目標達成のために図る必要があります。人材育成とは既存の人材を企業戦略に合わせていくプロセスですから、戦略に合わせた人材のチューニングとも言えるでしょう。
成長を自己責任にしてしまうと、企業にとって本当に必要なスキルを個人が伸ばそうとしているかどうかがわかりません。また、「成長しようとしないこと」を許容してしまうリスクも生じます。
以上の考えから、個人の成長を自己責任にしてしまうのはお勧めしません。
まず、ここまでは企業として人材育成に取り組んだほうが良い、ということをお話ししました。では次に、対象者をどう考えればよいかを考えていきます。
「成長」に対する本人の意識を高める
人材育成について、私は2階建てで考えています。
まず1階部分は「全員を対象とした動機づけ、マインドセット」です。
広い意味では社長や役員からの講話や方針説明なども含まれると考えており、組織開発に近くなります。
ここでは、会社の理念や価値観、戦略や方向性などを理解し、従業員自身に成長の必要性を感じてもらいます。従業員の気持ちを高める体験や、従業員同士の関係性を強める対話などといったワークショップの手法も、仕事(あるいは組織)への貢献意欲が高まりますので、有効でしょう。
人事の仕事をしていると、従業員から研修に前向きな意見をあまり聞かないのが実情です。しかし、土台として上に述べたような取り組みを続け、成長に対する本人の意識を高めることで、次に述べる、より踏み込んだ施策への姿勢も変わってくると考えます。
「選択と集中」で、会社の課題を解決する
全従業員に対して成長に対する意識を高めた後、人材育成の2階部分は「必要な人に必要なスキル、考え方」です。
現場従業員、ミドルマネージャー、経営層、それぞれの立場や役割に必要なスキルはあるはずですから、必要な人に必要な教育を行うことが重要になってきます。
前述の通り、人材育成施策は会社の戦略や課題に合致していなければなりません。
会社として強みを伸ばすのか、弱みを補てんするのか。戦略上何が課題になっているのかを見極めて、どのようなスキル、マインドセットが必要で、今何が足りないのか、これからどのようなことが必要になるのか見極めなければなりません。
さらに、人材育成にかけられるリソース(人事担当者の工数やコスト)は有限ですから、優先順位をつけ、集中投資しなければなりません。
集中の方法としては、それにより実質的に教育を受けられる従業員が限られてしまうわけですから、従業員を様々な切り口で区分してみるのが良いでしょう。
例えば、働きアリの法則(2:6:2の法則とも呼ばれる。集団はよく働く2割、普通の6割、働かない2割に分かれるという法則)で分けてみる、一般社員、課長、部長、役員といった階層で分けてみる、職種や部署で分けてみる、といった方法が考えられます。
様々な切り口で区分したうえで、課題に最も「効く」集団に人材育成施策を提供しましょう。
まとめ
以上、人材育成を戦略的に考えること、全体と個別を分けて考えることをご説明しました。
人材育成には正解がありません。漫然と過去の施策を続けたり、流行りの方法をすぐに取り入れたりする前に、自社の人材育成をどう捉え、何から始めるべきか、じっくり考えてみませんか。