コラム

参謀 青木 永一

小規模企業がコンプライアンスを備えるときの考え方(前編)

2019年、世間を賑わせた企業不祥事のなかで、企業ブランドを棄損させたと感じる出来事についてのアンケート結果が広報・メディア対応の専門誌『広報会議』2020年1月号で発表されました。その上位3位は以下のとおりです。

 

1位 かんぽ生命の不適切販売

2位 レオパレス21 建築基準法違反

3位 吉本興業所属タレントの闇営業とその後の事務所の対応

 

長年にわたる営みによって築き上げてきた企業の信用とブランドが一瞬にして崩れ、さらにマスコミによる執拗な報道が、その再構築を阻害しています。

 

ご承知のとおり、名だたる企業だけに限らず企業不祥事は枚挙に暇がありません。

 

次はどの企業がどのような不祥事を起こすのか、不謹慎だと認識しながらもそのように考えてしまいます。

 

皆さんは「コンプライアンス」という言葉にどのようなイメージをお持ちでしょうか。

 

企業不祥事が表面化し、企業のトップたちが揃って頭を下げる場面を想像する方も少なくないでしょう。

 

前編の今回は、小規模企業がコンプライアンスを備えるための考え方と意義について一緒に考えたいと思います。

 

 

一般的なコンプライアンスの印象について

 

「コンプライアンスが徹底されている」

 

このような表現に触れたとき、極端ですが全社員の行動や言動の制限、監視、謹慎などの過剰な縛りとして捉えてしまうことはないでしょうか。

 

あるいは、不祥事が露(あらわ)になり、初めて発動される事後対応をもって「コンプライアンス」とするならば、企業の尊厳に疑問を感じます。

 

また、過剰な縛りで統制することは、働く者のやる気を削ぎ、人材が流出する原因にもなります。

 

企業側がそのことを自覚することは稀で、不幸なことに社会に対する模範的な企業であると自負している場合も少なくありません。

 

コンプライアンスとは何であり、何ではないか

 

そもそも、コンプライアンスとはどのような意味を持つのでしょうか。

 

一般的には「法令遵守」と訳されますが、法治国家の日本において法令遵守をわざわざコンプライアンスと言い換えるようでは、有り体に言えば自らの無能を公言しているようなものではないかと思います。

 

数多くの企業不祥事事件に携わり、その後の再生現場で実績を残されている弁護士の國廣 正氏の言葉を引用すると

コンプライアンスとは、企業が持続的に成長していくためのリスク管理論、すなわち『戦略を実現するための保護』である

 

と話されています。

 

リスク管理論と一口に言っても、その範囲は非常に広いため、大企業のように法務部や人事部を備えていない小規模企業の経営では、場当たり的な事後対応で難所を越えてきたということも少なくないでしょう。

 

そのような状況で小規模企業がリスク管理、すなわちコンプライアンスについて考察するためには、本質のみに絞ることが有効です。

 

リスク管理の目的は、働く人がプライドを持って正しく仕事をし、企業を発展させ、皆で幸せになることに尽きます。

 

たとえば、顧客をはじめとするさまざまな関係者との正しく持続可能な関係を保つため、そして製品やサービスを正しい形で顧客へ届ける業務の遂行上、戦略的に発展していくためにどこにどのようなリスクが潜んでいるのか、想像力を働かせて事故が起こりやすいと考えられる箇所に先手を講じること、それがリスク管理の本質ではないでしょうか。

 

常に戦略と一体であるもの、そのように考えていただければと思います。

 

間違ってはいけないのは、既に起こった不祥事に対する事後的な調査は、リスク管理ではないということです。

そのようなものは「犯人捜し」が相応しい言葉でしょう。

 

ちなみに、企業統治を意味する「ガバナンス」と混同しがちですが、ガバナンスはコンプライアンス違反に至らないための、組織内部に限定した具体的な管理体制と捉えてください。

 

当コラムでは、ややこしいので両者の明確な違いを区別しません。

 

 

 

小規模企業にコンプライアンスは必要か?

 

結論から申し上げると、当然必要です。

 

理由は3つです。

 

1つは、経営における透明性を担保するためです。

 

透明性は、戦略実現可能性のリスクを軽減させるものです。

 

企業規模の大小を問わず、企業人すべてに求められることは、高い倫理観に基づいたプロ意識であり、それを自身で「自発的」に感じられるか否かが、個人の人生の充実度にも大きく影響するものと考えています。

 

美意識とも言えるでしょう。

 

人の性弱、性怠惰を起因とする「魔が差した」場面では、後悔したときには既に犯罪が成立している状態であり、もはや取り返しはつきません。

そうなると、及ぼす影響の計り知れなさに恐れが生じ、隠ぺいを考えてしまうことも無理はありません。

 

私もそう考えないという自信はありません。

 

即座に打ち明ける潔さをもって良しとする企業文化がないところでは、その後の影響は語らずともご理解いただけると思います。

 

当初描いた理想や戦略は推進力を失い、高波の中浮かんでいるだけの船同様、沈むまでに時間は必要としません。

 

綺麗ごとだと思考停止的に片づけるのではなく、日々小さな積み上げによって得るものが欲なのか、または徳なのかは自分の意志で行動のコントロールが可能です。

 

潔さは、日々の意識と行動の相当量の積み上げの先にしか得ることができない以上、これまでの過去に縛られず、これから先どうするかについて今意思決定し、具体的に始めることが透明性を基調とする企業文化を創り出す第一歩となります。

 

2つ目は、継続が大前提の企業経営には、安定性が必要なためです。

 

私たち小規模企業も、サービス提供や雇用などを通じて社会に貢献していることから、顧客や取引先、そして従業員のためにも安定した経営への取組みに怠惰であってはなりません。

 

企業の大小問わず、経営者の資質が卑しく無能、企業文化の実態が拝金主義の場合などは、たとえコンプライアンスを備えていたとしても有名無実となることは、冒頭で触れた不祥事が証明しています。

 

経営の安定性は、企業を為す「人」の質によるところが大きいため、職を通じた社会への貢献によって醸成されるプロ意識と、多くの支えの中で自分が成り立っていると考えられる謙虚さを常に思い起こさせる仕組みが必要になります。

 

経営資源(ヒト、モノ、カネ)の中でも、教育によって質が高まるのは人のみです。

逆に言うならば、人は教育によってしか質は高まりません。

 

目的と意義が明確な教育システムが正常に、そして継続的に運営されることが安定性の支えとなることはご理解いただけると思います。

 

最後3つ目は、経営者が従うべきルールを備えるためです。

 

特に小規模企業の場合は、経営者の絶対君主制により、従業員との関係が強権的で硬直化している場合が多いのではないかと思います。

物言う従業員の存在はあったとしても、それが仕組みによって存在するのではなく、単に属人的なものならば、再現性が約束されません。

 

経営者とて人であり、よほどの人格者でない限り性弱であり、性怠惰を起因とする間違いを犯す可能性の方が高いため、会社を「任されている」第三者的な意識を持って代表職にあたるべきです。

 

そのためには、従業員との間でルールに則った正しい相互管理関係が機能することが望ましいのではないでしょうか。

 

このことが実現したときに、その企業の発展は確度が高まるのだと思います。

 

経営者が従業員の声を甘んじて受け入れる姿勢を具体的に示すこと、そして従業員が伝えやすい環境づくりのため、経営者自身が感謝と謝罪を躊躇なく行うこと。

備わるまでには時間が必要ですが「経営者自ら、今ここから始めよ」です。

 

ここまで紹介した3つのなかでもこの1つが備わるだけで、透明性と安定性の確度が各段に高まるはずです。

 

間違いなく言えることは、テンプレとコピペ型のコンプライアンスには『意義』と『物語』、なによりも『未来』が感じられません。

 

より良い違いをもたらす経営の仕組みづくりは、参謀リンクスがお手伝いします。

 

 

前編まとめ

  • コンプライアンスとはリスク管理論であり、戦略を実現させるための保護である。
  • 発展的な想像力によって、業務遂行上に潜むリスクに対して先手を講じること。
  • コンプライアンスが必要な理由は3つ
  • 1.経営の透明性が戦略実現可能性を高めるため
  • 2.経営の安定性を左右する人の質を高めるため
  • 3.経営者が守るべきルールを備え、社を私物化しないため

次回後編では、コンプライアンス策定における注意点について考えたいと思います。

※ 後編はコチラ

 

参謀 青木 永一

 

 

このコラムの著者:

参謀青木 永一

参謀の特長
ベルロジック株式会社 代表取締役 経営学修士(MBA)メンバーの中でも、異色の経歴を持つ。 前職は、事業者向け専門の「ナニワの金融屋」であり、30代後半までの15年間の経験の中で、約500社を超える倒産と間近に関わってきた。
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