コラム

参謀 青木 永一

小規模企業がコンプライアンスを備えるときの考え方(後編)

前編から引き続き、後編では小規模企業にとってのコンプライアンスが機能不全に陥らないため、そして「意義」が失われないために最低限必要なものについて、一緒に考えたいと思います。

 

前編はコチラ

 

コンプライアンス策定で押さえておきたい3つのポイント

 

小規模企業だからこそ、創造的で柔軟性のあるユニークで「面白い」コンプライアンスを備えることが可能です。また、そうしたコンプライアンスは従業員の成長や仕事への愛着を醸成することにもなり、人材流出のリスク管理のうえでも重要ですので、策定の際には以下の3点は考え方として押さえておきたいところです。

 

1.過剰な縛りを課さないこと

 

説明するまでもないことですが、行動の過剰な制限は人間の主体性を奪い、思考を停止させ、変化に対応し続けるために最も大切な創造性と柔軟性を破壊します。

 

人間の尊厳を奪う行為に他ならず、時代錯誤も甚だしいことです。

 

人の性弱や性怠惰がもたらすリスクの未然防止として、戦略的かつ財務的に、また訴訟リスクへの備えとして従業員の行動に一定の制限を課すことが必要な場面はあるでしょう。

 

ですが、人の活力を削ぐような過剰な縛りは、例外なく企業と人の発展を阻害するものであり、企業活動を通じて社会に貢献すること、社会人として成長する喜び、それらを通じて感じられる幸福感が失われると、当然に社会に対して発展的な価値を生み出せるはずがありません。

 

この点は強く意識しておきたいところです。

 

 

2.正しい教育システム

 

自社が存在する目的を理解し、地域や社会、そして顧客にとって価値ある貢献を「職」によって実現するプロとしての誇りと倫理観は、放っておいて得られものではありません。

 

仕事を通じて、誰の、何に貢献しているのか。

自社が存在する意味は何か。

理念と戦略、そしてコンプライアンスがどのように繋がっているのか。

 

これらの「立ち返る軸」について、いつでも、どこでも、誰によっても、再現性高く伝えられることを可能とする環境づくりへの積極的な投資は、今や小規模企業にとっても必須のものです。

 

適切な教育が施されている環境では、自らの尊厳と倫理観が醸成され、職への誇りが芽生えることは、企業ブランドを高い次元で維持しているいくつもの企業の事例が証明しています。

 

 

3.ストーリー性

 

この点は、もっとも重視すべきことだと考えています。

 

コンプライアンスはユニークで「面白い」が大事だと考えています。

法律の条文や法令集、ひな型を入口にした場合、法律を扱う職業でもない限り、従業員が積極的に理解しようとすることは考え難いです。

 

なぜならば、画一的でストーリー性のないものが、面白いはずはないからです。

 

例えば、大企業の内部統制(ガバナンス)について触れている法律、会社法第362条を受けての会社法施行規則100条(業務の適正を確保するための体制)がありますが、これらの条文を読んで、果たしてどれだけの人が積極的に意味を理解しようとするのでしょうか。

 

 

会社法施行規則100条(業務の適正を確保するための体制)

1.法第362条第4項第六号 に規定する法務省令で定める体制は、次に掲げる体制とする。

  1. 取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制
  2. 損失の危険の管理に関する規程その他の体制
  3. 取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
  4. 使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
  5. 当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制

2.監査役設置会社以外の株式会社である場合には、前項に規定する体制には、取締役が株主に報告すべき事項の報告をするための体制を含むものとする。

 

3.監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含む。)である場合には、第一項に規定する体制には、次に掲げる体制を含むものとする。

  1. 監査役がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合における当該使用人に関する事項
  2. 前号の使用人の取締役からの独立性に関する事項
  3. 取締役及び使用人が監査役に報告をするための体制その他の監査役への報告に関する体制
  4. その他監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制

 

内部統制規則を策定する企業が「他社同様に、これを伝えておけばまずは大きな問題はないだろう」のような、執念も面白みもない姿勢であるならば、ストーリー性が備わることは考え難いです。

 

 

テンプレ×コピペ型のコンプライアンスに意義はない

 

業界的な特徴を俯瞰的に、そして歴史的に鑑みて今後派生しそうなリスクをいかに管理するかという視点が重要であり、大胆かつ繊細なセンスが問われるところです。

 

コンプライアンス策定にあたっては、まず顧客に喜んでもらい選ばれ続けるために、想像力を働かせ、どこにどのようなリスクが潜んでいるかを考えること。

 

その後、会社法施行規則100条に照らし合わせて抜け漏れのないように条文で補完することが、積極的で意思のある望ましい順序ではないでしょうか。

 

意義深く面白いストーリーには、人の感情が芽生えます。

テンプレートに意義など感じられるはずはなく、意識されなければ記憶にも残らず、早い段階で忘れ去られることになるでしょう。

 

忘れ去られた状態では従業員の自律が作用するわけなどなく、人の持つ性弱性によって「魔が差す」ことや、最悪の場合には組織的な犯罪を誘発するリスクが高まることも想像できます。

 

となると、事後対応とその後の過剰な縛りに行きつく残念なオチが仕上がります。

 

自発性や個性は抑圧され、ストーリー性や倫理観とは無縁のコンプライアンスでは、リスク管理は失敗し、不祥事が繰り返されても不思議はありません。

 

最後に

 

経営とは、より良い違いを生み出し未来を創造していくことが責務だと考えています。

綺麗ごとだと単細胞的に反応するのではなく、人材の流出を防ぎ、事業の継続を担保するためにもまずは四の五の言わずに取り組むことが経営者の務めであり、経営の面白みではないでしょうか。

 

人手不足の状況改善は、国が助けてくれるわけでもありません。

 

経営は常に自己責任です。

 

ならば、今の人材の流出リスクを最大限排除しておくことが未来の経営を助ける最善の策だと理解していただけるものと思います。

 

小規模企業だからこそユニークで「面白い」もの、何よりもストーリーを感じられるコンプライアンスを備えてもらいたいと思います。

 

参謀 青木 永一

 

このコラムの著者:

参謀青木 永一

参謀の特長
ベルロジック株式会社 代表取締役 経営学修士(MBA)メンバーの中でも、異色の経歴を持つ。 前職は、事業者向け専門の「ナニワの金融屋」であり、30代後半までの15年間の経験の中で、約500社を超える倒産と間近に関わってきた。
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