- 参謀の特長
- 大学卒業後、20年以上にわたって電機メーカーにてモノづくりに従事。管理畑を中心に経験を重ね、新興国での海外赴任も経験するなど、モノづくりの上流から下流までを経験。それらの経験を活かして、現在は赤字事業の経営再建に取り組み中。 自らの経験にMBAの経営理論を加え、経営現場をサポートします。
コラム
参謀 山尾 修
「社長は現場のことがわかっていない」はなぜ起きるのか?-組織におけるそれぞれの役割-
「社長は現場のことがわかっていない」
日々仕事をしていく中で、このようなことを思ったことはありませんか?
相手が社長ではなくとも、役員や部長、もしくはあなたの上司に対してこのようなことを思ったことはありませんか?誰もが一度や二度は言葉にしてしまったり、考えたりしたことがあるのではないでしょうか。
今回はそのような思いをなぜ持ってしまうのかお話しをしたいと思います。
1.それが組織の自然で正しい姿
私は色々な職能を経験する中でこれらを「日常のあるある」として聞いてきました。
もちろん私自身も20年以上の実務経験を振り返ると、恥ずかしながら冒頭のような言葉を言ってしまったことは一度や二度ではありません。
そのような私ですが、現在、経営企画や事業企画の立場となり、経営者に非常に近い立ち位置で仕事をしていると面白いことに気がつきました。
同じような言葉が経営者からも漏れ聞こえてくるのです。
そもそも組織のトップになるような方は人前で愚痴を言うようなことはしません。しかし経営者も人間ですから、秘書や一部の幹部の前では気を許してしまい、ついつい愚痴をこぼしてしまうことがあります。
「現場の社員は、戦略が全然わかっていない」
「我が社の置かれた状況を本当に理解しているのか?」
各現場の担当者のみならず、経営者からもこのような声が聞こえてくるものなのです。
なぜ、お互いからこのような言葉が出てくるのでしょうか?
結論から言うと「仕事におけるお互いの役割が異なり、仕事の課題解決に向けたアプローチが180度異なるから」なのです。
もちろん日頃のコミュニケーションが不足しているから、組織の風通しが悪く本音で議論ができていない、等も原因の一つと考えられるでしょう。しかし、いくらコミュニケーションを充実させようとも、そもそもこのようなことが起きるのは組織構造上、起こるべくして起こるものなのです。お互いの関係性が悪いというのではなく、むしろ自然な姿・正しい姿と言えます。
2.本当の仕事の価値は、理想と現実の溝を埋めること
たとえば経営トップの視点から見てみましょう。
社長の仕事は会社の方向性を見極め、決断していくことです。将来の方向性を考えるときには、今の自社が置かれた状態を起点に考えるのではなく、どうあるべきか?どうあらねばならないか?から考えます。
生き残るためには「自分たちにできるかどうか」よりも「どうあるべきか」を重視する考え方です。このように先にあるべき姿を置き、そこから現状を振り返るような考え方をバックキャスト思考と言います。
一方、現場の視点はどうでしょうか。
理想の姿、あるべき姿を言われたところで、それを実行するのは現場です。各現場では仕事を行うときは全て「今起きている現実」が起点です。どうしようもない事情が複雑に絡み合った現実を起点に、一つひとつの改善や取り組みをみ上げ、何とか目標にたどり着こうとしています。このように、今を起点にして前を向く考え方をフォアキャスト思考といいます。
理想の姿から逆算して今どうあるべきかを考える社長、今の現実を起点に実現できることをひとつずつ積み上げていく現場。
戦略と実行。バックキャスト思考とフォアキャスト思考の間で衝突が起きるのは、ある意味では組織として正しい姿なのです。
このように俯瞰的にみていくと「社長は現場のことがわかっていない」という言葉が出てくるということは、社長があるべき姿から戦略を考えている証拠であり、また現場がものごとを何とか前に進めようと奮闘している証拠でもあり、健全な姿だと考えることができないでしょうか?
そしてもう一段階、深堀りして考えてみませんか?
「社長はなぜこのような方針を打ち出したのか?何が社長をそうさせたのか?」
こう考えることで、やみくもに仕事を進める以上に日頃の仕事への腹落ち感が出てくるのではないでしょうか。
戦略と実行、すなわち理想と現実の間にある溝を埋めていくことが本当の仕事であり、価値があることと私は考えます。
うまくいかないからこそ、いかに実現できるかというところに付加価値があります。
簡単ではないからこそ、そこにあなたの存在価値があるはずです。
今回は「社長は現場のことがわかっていない」はなぜ起きるのか?というお話でした。