コラム

参謀 青木 永一

小規模企業経営の財務的盲点 資本コストの考え方について【前編】

その利益は本当にプラスといえる?

 

事業を安定的に継続していくためには、利益が継続して生み出されることは当然の「条件」です。

 

その利益を固定費回収のための「額」で捉えるか、財務体質強化のための「率」で捉えるかについては、局面に応じて判断は異なりますが、特に数字の本質ともいうべき割合の「率」で捉える場合には比較基準を持つことが事業継続をより確かなものにするためには必要となります。

 

おそらく多くの方が、見出しの問いに対して「諸経費を差し引いて、利益が出ているならばプラスなのでは?」と思われるのではないでしょうか。

 

今回は、企業が投資を行う際の意思決定に一定の基準を持たせるため、比較対象となる「資本コスト(WACC :ワックと呼びます)」についてその概要をお伝えしたいと思います。

(※WACC=Weighted Average Cost of Capital )

 

 

資本の種類と必要なコストとは?

 

まず、資本コストとは、企業の資金調達に伴うコスト(費用)のことです。

 

資本には大きく分けて以下のように2つの区分があります。

  1. 他人資本と呼ばれる「負債」(※以下、有利子負債としてご理解下さい。)
  2. 自己資本と呼ばれる「資本金」(※以下、資本金と利益剰余金の合算としてご理解下さい。)

 

まずは1.の「負債」にかかるコストについて簡単に説明します。

 

負債にかかるコストは有利子の言葉に表されているとおり、利息がそのままコストとなるので理解しやすいでしょう。金利は、銀行が貸し付ける企業に対して求めるリターンであり、自社がいくらの金利を支払っているのかについては、経営者ならば強く意識されているはずです。

 

負債区分の中には、金利を必要としない買掛金や支払手形などがありますが、それらは資本コストを考える際には考慮しません。金利に相当する相手方の利益は、損益上既に計上されているためです。

 

次に、2.の「資本金」にかかるコストについての説明です。

 

株主資本については、上場企業ならば、【株価×発行株式数】で計算することが出来るのですが、小規模企業の場合は非上場ということもあり、決算書の純資産の部の「資本金」と「利益剰余金」の総和と考えていただいてまず問題ありません。

 

資本金にかかるコスト、こちらは経営者自身が株主であるため違和感を覚えるかもしれません。ですが、経営者自身の資金を会社へ投資していることに変わりはなく、投資である以上、積極的に期待するリターン率はあって然るべきです。

この期待するリターン率のことを、「株主期待収益率」と言い、小規模企業の経営の盲点となっていることが多いと感じられます。

 

どれくらいの期待収益率が適切なのかについては、本来はCAPM理論( キャップエム:資本資産評価モデル、Capital Asset Pricing Model )に基づいた計算が必要となるのですが、小規模企業の場合は必要ありません。とは言え、馴染みと納得感のある指標が必要となるため、手始めとしては業界平均と自社のこれまでの推移から鑑(かんが)みた、期待する粗利益率、または必要経費を差し引いたあとの期待する営業利益率などが良いのではないかと思います。

 

ただし、仮にそれらが銀行の借入金利の率より低い、または遜色ないと言った場合については、「借入利率+(GDP成長率×2)、または業界平均成長率」などの一定の工夫が必要となるでしょう。

 

また、諸般の事情により債務超過の場合については、【後編】で述べる方法をそのままの形で適用出来ません。

別途、柔軟な解釈が必要になりますが、ひとまずは、設立当初の資本金額を仮置きの数値として考えてみれば良いでしょう。

 

まずは、以上に述べた2点の「負債」と「自己資本」の中身と、それらに必要となるコストが何を意味するのかについてご理解頂けたでしょうか。

 

【後編】では資本コストの計算方法と、具体例を用いて理解しやすいようにご説明させて頂きます。

 

  • 他人資本:長期借入金+短期借入金
  • 自己資本:資本金+利益剰余金

※精緻な計算は必要ありません。まずはざっくりとした理解で結構です。

このコラムの著者:

参謀青木 永一

参謀の特長
ベルロジック株式会社 代表取締役 経営学修士(MBA)メンバーの中でも、異色の経歴を持つ。 前職は、事業者向け専門の「ナニワの金融屋」であり、30代後半までの15年間の経験の中で、約500社を超える倒産と間近に関わってきた。 自称 マネジメント数学研究家(暇さえあれば、ビジネスと数学の交わり方をユーモアたっぷりに伝える工夫をしている)。