コラム

参謀 山尾 修

部下は上司の「歩く音」までチェックしている ―責任者の立ち居振る舞い―

「山尾さんが焦っているときは、すぐにわかりますよ。パタパタと走り回っている音がしますので。」

 

打ち合わせをしていた中での雑談時、当時の部下からこのように言われ、同席していた部下たち全員から笑われた経験があります。

多くの部下が「私もそう思っていました!」と。

 

皆さんはオフィス内を歩くとき、「自分が歩く時の音」まで意識していますか?

「歩く時の音」はあくまで一例ですが、立ち居振る舞いについてどこまで意識されていますか?

 

今回は、職場での立ち居振る舞いについてお話してみたいと思います。

 

部下は自然と「上司を値踏み」しています

 

上記の私のケースについて、もう少し詳しくお話します。

インドで部門責任者をしていたときの話です。

日本のように多くの社員がいて、分業が確立されているような状況とは大きく異なり、責任者と言えば聞こえが良いですが管理業務のみならず実務も雑用もこなすプレイングマネージャーとして日々時間に追われるような生活をしていました。

 

そのような中、社長に呼ばれた時のことです。

待たせてはいけないと小走りで向かっていました。事業立て直しの真っただ中で多くの検討事項を抱えていた状況下、寸暇を惜しんで検討を進めたいとの気持ちで邁進していたのを思い出しました。

社長に呼ばれた時はいつも急いで駆けつけていました。

しかし、それは私の立場からの視点です。自分の都合を中心とした考え方でしかないことに気が付いていませんでした。

 

部下からすると一生懸命先頭に立って取り組んでいたことには共感してくれていたかもしれません。

一方で、責任者の割にどっしり構えておらず、少し軽く見えていたのではないかと当時を振り返っています。

「本当にこの人についていって大丈夫なのか?」

困難に直面している時の底力、但力のようなものを計られていたのではないでしょうか。

 

海外で、しかもお互いに率直に話ができる関係を築けていたので笑い話として指摘してくれましたが、日本では恐らく部下が上司にこのようなことを言ってくることは稀かもしれません。

しかし、心の中で「上司の値踏み」をすることは日本も海外も同じではないでしょうか。

 

部下から見えるのはあなたの外見だけ

 

部下と接する時、話の内容はもちろんのこと、理解度に応じて説明を変える等は皆さん意識されていると思います。また目線や姿勢、声のトーンも工夫されているのではないでしょうか。

しかし、何気なしに着座している時や休憩時、そして社内を歩いている時などは意識のスイッチを「完全OFF」にしていませんか?

 

 

責任者は日々、多くの決断を迫られます。葛藤といえば聞こえは良いですが、心の中ではのたうち回り、右か左かと迷いに迷い、思考を整えようとしても不安で同じところをぐるぐる回ってしまうような経験が多々あるかと思います。

でも、残念ながらあなた自身の頭の中は外からは見えません。見えるのは外見だけなのです。

 

余談ですが、部下から指摘されて以降は社内での歩き方を変えました。

普段歩くよりも少し遅めのスピードで、ゆったりと歩くように変えました。

 

 

部下の心理を上手く活用した事例

 

また「部下が責任者の立ち居振る舞いを良く見ていること」を逆にうまく活用している事例をご紹介します。

当時の私の上司であった社長は考え事をする時は定期的に工場へ赴き、いくつもある生産ラインの間を歩きながら考え事をするようにしていたそうです。頭の中は考え事で葛藤中ですので、時に首をかしげたり、腕を組んだり、また立ち止まったりとしながら、考えを整理されていたようです。

しかし、それは社長の頭の中の話であり、工場で働いている人からすると社長が生産ラインに何らかの課題を見つけ、検討しているようにしか見えていません。

実際にそのようにしていると、生産ラインの人たちがキビキビと動きだしたり、ライン長が急に近辺の整理整頓をし始めたり、次回行くと自発的な改善が見られたりしたようです。「君たちの行動を良くみているよ」と、良い意味での牽制を利かすことが出来ると話してくれました。

「部下が上司の様子を良く見ていること」を上手く活用した事例です。

 

まとめ

 

上記のような域まで達するのは容易ではありませんが、職場でいる間はOFFの時間であっても「完全OFFにはしない」を実践することは責任者の仕事の一つではないでしょうか。

 

今一度リーダーである皆さんの立ち居振る舞いを見直すきっかけになれば幸いです。

山尾 修

このコラムの著者:

参謀山尾 修

参謀の特長
大学卒業後、20年以上にわたって電機メーカーにてモノづくりに従事。管理畑を中心に経験を重ね、新興国での海外赴任も経験するなど、モノづくりの上流から下流までを経験。それらの経験を活かして、現在は赤字事業の経営再建に取り組み中。 自らの経験にMBAの経営理論を加え、経営現場をサポートします。