コラム

参謀 青木 永一

共同経営に潜む倒産リスクについて【前編】

理想家の頭の中はアンバランスな世界

 

「気心の知れた仲」、「お互いの利益が一致した」、「相乗効果が狙える」、その他にも良く似た動機によって、お互いの信頼関係を基にした起業を検討している、またはその後の相談を受けることが少なくありません。

 

事前相談の場合には、「水を指すようなのですが」、と断りを入れ「老若男女、時代、業種如何を問わず、当初の思いの熱量や温度、艶やかさが持続することはないと考えた方が良いですよ」と必ずお伝えします。

 

強く懸念することを端的に説明すると、成果を感じられるまでのタイムラグの想定外の長さと、これからの物語に「まさか」の想定外を織り込んでいないことです。

 

つまり、経営に対する期待とリスクのバランスの悪さです。

 

報酬らしい報酬を手にするまで、長期間に渡って辛苦を舐める我慢だけの生活は、無防備で無秩序な欲が静かに音を立てずに積もります。業務と生活における辛さが被害妄想を生み、不満が募り出すと何らかの形で精算がなされない限り、当初に描いていた理想の熱量と温度、艶やかさなどは見事に崩れます。

最悪は禍根を残すことにもなります。

 

実際のご相談の席ではこれらのことを、もう少し具体的に実例を持ってお伝えしています。

 

誤解しないで頂きたいのですが、決して共同経営そのものを否定しているのではありません。起業前の成功物語を想像する理想家の頭の中にあるアンバランスな世界に対する警告であり、起業後の場合ですと、「事業再生」として具体的な実働で解決のために挑みます。

 

アンバランス

 

さて、前置きが長くなりましたが、共同経営の実現を前提とした機能的側面の検討課題である、株式の持分割合、不都合が生じた際の責任所在の明確化、雇用した人材の育成制度の方針などの考察に入る前に、事前の準備段階についてご理解して頂きたい内容をお伝えしたいと思います

 

親しき仲の共同経営にとって「禍根」となるものとは?

 

昔から「親しき仲にも礼儀あり」とはよく言われていることです。

この点については、皆さんもよく理解していることでしょう。

 

礼儀はどのような関係においても必要なのですが、では共同経営に際しては何が「必要ないもの」か、については明確に即答出来ますか?

 

ご自身の意見を一度考えてみてください。

 

私が、これまで見てきた他者の失敗事例から考察すれば、大きくは「私情」と「怠惰」、そして「虚栄心」の3つと考えています。

それぞれが、どのようなものなのかについては皆さんがお察しのとおりだと思いますが、これまで見てきた失敗事例を踏まえて、以下に触れたいと思います。

 

 

 

●まず1つ目の「私情」について。

 

ここでは特に、優柔不断さと利己心のことを指します。

 

自分の感情に対して不必要に保守的、利己的になると、厳しい言葉や立場の別を明確に指し示すことに躊躇してしまい、お互いに緊張感と執念を持って経営していく関係であるはずが、その場を取り繕う関係に成り下がります。

 

また、限度を超える意固地さは、都合の良い理屈に執着し、声の大きさで相手を丸め込もうとする、双方にとってストレスフルな関係性をつくり出すことになり、共同経営の「補い合う」という意味を見失うことになります。何のための「補い合う」なのかを忘れるところに、もはや目的などは影を潜めてしまうでしょう。

共同経営によって、一体何を成し遂げたかったのか、それはなぜか。

立ち返るルール、大人としての冷静さが取り戻されない限り、遠くない将来に予想以上の最悪の事態を招くことは間違いないといえるでしょう。

 

 

●2つ目の「怠惰」は、人が持つ怠惰性そのものである「怠け」、「惰性的」であることです。

 

日々のタスクに対すての怠惰となれば、それはもはや死に体同然であり、段取りなどに対して備えを欠くというものは、自律の喪失とも言えるのではないでしょうか。

 

交渉設計などの事前準備を怠り、対策の全てが後手に回り、相手の思うツボに陥ったことで大きな損失を招いたという話は枚挙にいとまがありません。

 

倦怠感のような体調不良などによるものを除けば、結局のところ根の深い甘えん坊であったり、致命的なホラ吹き、虚栄心の塊にしかすぎない中身が空っぽの人が多かったように思えます。

 

自らの行動を律するには、日々のルーティンと行動に対する意味付け、強い動機付けが求められるのですが、実行力に欠く経営者は、一度ひどく痛い目に合うことがカンフル剤となることが事実として多いです。

 

 

●そして最後3つ目の「虚栄心」については、実力の無さ、不都合な真実を覆い隠すための、嘘と見栄のことです。

 

経営において時に「見得を切る」ことが必要な場面がありますが、この「見得」とは明確に異なります。特に、嘘と強欲の見栄については、経営の動脈ともいえる資金の枯渇を招くものですので注意して頂きたいところです。

 

個人的な見解にはなりますが、虚栄心に取り憑かれている方の特徴としては概ね、金額の大小を問わずお金の話が多く、表情と立ち居振る舞いに無駄の多い威圧がある、話を深掘りしていく過程でつじつまが合わないなどの特徴が見受けられます。

 

当然、上記3点に限った話ではなく、その他にも様々な特徴がありますが、ひとまずこのあたりが代表的なものではないかと思います。

 

引き続き、【中編】では実例と取り組みのための心構えについて、そして最後の【後編】で具体的な方法、対策についてお伝えさせて頂きます。

このコラムの著者:

参謀青木 永一

参謀の特長
ベルロジック株式会社 代表取締役 経営学修士(MBA)メンバーの中でも、異色の経歴を持つ。 前職は、事業者向け専門の「ナニワの金融屋」であり、30代後半までの15年間の経験の中で、約500社を超える倒産と間近に関わってきた。 自称 マネジメント数学研究家(暇さえあれば、ビジネスと数学の交わり方をユーモアたっぷりに伝える工夫をしている)。