コラム

参謀 青木 永一

共同経営に潜む倒産リスクについて【中編】

【前編】からの続きです

 

実際にあった「魔坂」の坂道

 

詳しくはお伝え出来ませんが、共同経営による起業後 当初の思惑から大きく乖離し、約3ヶ月も経たないうちに魔坂の坂を転げ落ちていく企業の再生を請け負った事例をお伝えします。

 

急いでいる様子の相談の電話を受け、23時を過ぎてファミリーレストランで待ち合わせ、これまでの経緯、背景などを細かく伺わせて頂く中で、「やはりそうか」と改めて強く確信したことを覚えています。

 

この時には私情と怠惰が直接的に再生の事態を招いたということよりも、虚栄心の精算が適切な方法で為されていなかったことが起因となり、数々の諸問題が同時多発かつ、連続的に起こり、カオス状態の中で非常に密度の高い多くの時間を費やしました。

 

その後間もなくして、一方を解任という形で共同経営を解消したのですが、責任と義務、負債の一部は当然負うために、それまで蓄えていた資金の流出が止まず、微力ながら事後処理の交渉や残った経営者の方の愚痴のはけ口、精神的な支えとなるために、真横で懸命にお手伝いをさせて頂きましたが、事前にご相談を頂ければここまでの事態には・・・と強く感じた後味の悪いものでした。

 

現在(2019年夏)では、最悪の状態からはようやく抜け出し、深い傷跡の処置は依然として残っているものの前進のための営業活動を行える状態まで回復し、社員教育にも力を入れ始めています。

 

 

「信頼」と「信用」の違いについて

 

共同して経営を行おうと思えたことは、共同経営者のことを強く信頼してのことでしょう。

それ自体は素晴らしいことですし、信頼がない状態では共同経営など行うことは決して出来ません。

ただし、これから共にビジネスを築いていく関係としての信頼の意味が何を指すものなのかについて、誤った認識を持っていると、近い将来に思わぬ事態を招くことになりかねませんので簡単にですがご説明させて下さい。

 

「昔からよく知っている関係だから」「家族ぐるみの付き合いだから」と言ったものは、あくまでもプライベートにおける信頼であり、ここにはお互いに暗黙のルールに則った「不介入」が存在します。多くは、各家庭や個人の経済的事情に対して、「見ざる言わざる聞かざる」というものではないかと思います。その前提の上に関係が成り立つからこそ、見返りなどを求めない、平和で情緒的な「信頼」が醸成されるのだろうと思います。

 

しかし、ビジネスの局面においては上記で触れた内容のような「信頼」は意味を持たないばかりか、災いを招く禍根ともなり得ます。

 

誤解を怖れずにお伝えするならば、プライベートの対義語にビジネスの関係というものがあると考えています。

 

見ざる言わざる聞かざる

 

致命傷を回避する仕組みとは何か?

 

共同経営を行う際は、事前のルールの取り決め、相互間のエビデンスに基づいた債務の確認、そして身辺における諸問題の確認などに時間と手間をかけることが後々に破滅的な憂いを招かないための「打ち手」となります。またこれらのことを最初の段階だけではなく、少なくとも半年おきなど定期的に行うことが、共同経営に潜むリスクの「怠惰」を排除する仕組みにもなり、ビジネス関係特有の「信用」を基にした「信頼」関係を築く基礎を構築し、共同経営の継続性を担保します。

 

プライベートにおける「信頼」とは似て非なるものであり、破滅的な倒産となり得る禍根を潰しておくことの意図を理解して下さい。

 

企業経営自体が経済活動であり、日常業務において大きなお金を手元で扱うため、プライベートのようなお互いの経済的事情に「見ざる言わざる聞かざる」では済まないのです。

 

お金にだらしない人に対する即効性のある特効薬は、言葉を選ばずに伝えると、一度は「どツボ」にハマり精神的に死にかけることが効果的ですが、そうなってからは遅いので、ルーティンを持つことに加えて、ルーティンを持続させるための動機づけをいかに設計するのか、ここに尽きます。

 

引き続き【後編】で、具体的な方法についてアドバイスをさせて頂きます。

このコラムの著者:

参謀青木 永一

参謀の特長
ベルロジック株式会社 代表取締役 経営学修士(MBA)メンバーの中でも、異色の経歴を持つ。 前職は、事業者向け専門の「ナニワの金融屋」であり、30代後半までの15年間の経験の中で、約500社を超える倒産と間近に関わってきた。 自称 マネジメント数学研究家(暇さえあれば、ビジネスと数学の交わり方をユーモアたっぷりに伝える工夫をしている)。