コラム

参謀 山尾 修

何度指導しても改善しない現場 ~行動デザインを用いた改善~【前編】

「何度言っても、なかなか治らないんだよね」

部下を指導しても思うように改善につながらない、また改善してもそれが継続しないということは良く耳にする話です。

身近な事例として、以下のようなことは皆さんの周りで見られないでしょうか。

 

事例1 製造ラインの現場

1日の作業終了時に工具の有無管理を実施するように指導しても、なかなか徹底出来ない。誤って工具が製造ラインに巻きこまれてしまえば事故発生となり、生産遅延で納期遅れにつながります。間違って商品の梱包箱に混入してしまえば、顧客から品質管理の信用を失うことになります。

 

事例2 管理部門で使用する部門内共有の重要ファイル

使用後は元に戻すように徹底しても、ついつい自分の机に置きっぱなしにしてしまう。明日も継続して使うからちょっとぐらい良いだろう、と自分の引き出しにしまってしまう。他のメンバーが必要な時、そのファイルを探し回ることになります。

 

上記、ひとつひとつは何気ないレベルの話ですが、なかなか徹底することは難しいものです。その作業にはどのような意味があり、やらなかった場合に何が起こるのかを上司がしっかり説明し、部下もきちんと理解してくれた。しかし1週間、1ヶ月、半年と時が経つと再び元に戻ってしまう。

部下も頭ではわかっているけれど、実際に行動するとなると面倒でついつい先延ばしにしたり、上司からチェックされなければ放置してしまう。このようなことは誰しも経験があると思います。

 

「なぜやらないのか?」に粘り強く向き合うことで改善に導くことは大切ですが、一方で膨大な労力を必要とします。

もし、その部下自身がその行動をやらなければ気持ちが悪い状態、自然とそれをやってしまう状態に置くことができれば毎回行動に移してくれるのではないでしょうか。

そのような「自然と相手が目的の行動をとってしまう仕掛け」の手法を「行動デザイン」と言います。日本語で”デザイン”というと意匠のことを思い浮かべますが、英語の”Deign(デザイン)”には”設計する”という意味もあります。相手の無意識の深層心理に働きかけることで、自然と行動させてしまおうという手法です。

 

 

実は「行動デザイン」は街中にあふれています。
皆さんも自然と行動を操られているのではないでしょうか。日々の生活の中での身近な例を挙げてみたいと思います。

 

 

■仕掛けの事例1:コンビニのレジ待ち 床に書かれた横線と矢印

昨今のコンビニ店内では、混雑に備えて複数のレジがあることは決して珍しくありません。

例えば朝の混雑時、どこに並んだらよいのかと店内で右往左往した経験はないでしょうか?床に横線が引かれ、そこからそれぞれのレジに向かって矢印が引かれていれば、客は自然と「ここで並んで待つんだな」「ここから順番に空いた方のレジへ向かえばいいんだな」と理解することができ、整然と列を作ることができます。

あなたは誰から言われなくとも、コンビニで自然とそのような行動をしていませんか?

 

■仕掛けの事例2 :単行本漫画の背表紙

本屋で漫画を買おうと手に取るとき、一巻から最終巻までの背表紙の絵がつながり、一つの大きな絵が浮かび上がったものを見たことがないでしょうか。

人間の深層心理として、不揃いのものはキレイに揃えたくなる習性があります。

一度買い始めた漫画をついつい全巻揃えてしまおうと大人買いするのはこのような心理が働いていることも一助になり、購買意欲を喚起するためのマーケティングにも応用されています。

 

■仕掛けの事例3 :子供の靴ならべ

何度言っても言うことを聞かないのは、子供の特権です(笑)

そんな子供の行動誘導することにも「行動デザイン」は活用されています。

子供が靴を脱がなければならない場所、そしてきちんと並べて欲しい場所に貼る足型ステッカーが売られています。これを床面に貼ることで、子供は無意識に「ここで靴を脱がなければいけない」「並べないといけない」ということに気がつくことができます。

親が言ってもいうことを聞きませんが、ステッカーを見ると自然とそのような行動をしてしまいます。

 

■仕掛けの事例4 :男性用小便器の的の絵

ショッピングモールのトイレで、男性用小便器の中に「的の絵」が書かれているのを見かけたことはありませんか?

「的」を発見すると、ついついそこを狙っておしっこをしてしまいます。小便器の周りはどうしてもおしっこが跳ねてしまうものですが、掃除の手間を最小限にするためにできることはないものか?一番おしっこが跳ねにくい場所を目指して用を足してもらうために、そのような工夫がされています。

私自身もまんまと操られ、一生懸命、的を狙っておしっこをしてしまう一人です。

 

■仕掛けの事例5 :最小限投資でのスピード違反抑制装置

日本ではスピード違反を抑制するために、ネズミ捕りを設置したり、事故が起きやすい場所で警官が立ち注意喚起をおこなったり、はたまた標識を設置したりすることはよく見受けられます。

しかし、そのようにお金をかけなくても、もっと効果的な方法はあります。

私が駐在していたインドでの事例です。インドでは車を止めたい道路の途中に高さ10㎝ほどの半円形の段差をつくることで、車のスピード抑制をはかっていました。一見小さな段差と思いスピードを落とさずにその段差へ車を走らせると、とてつもない衝撃が車内におきます。また場合によってはバンパーが大きく破損します。一度経験すると、次からは全てのドライバーがその場所ではブレーキをかけてスピードを抑制して走ります。
(名称は、スピードブレイカーと言います。そのままのネーミングです)

インドでも都市部には信号がありますが、国土が広く郊外の田舎のようなところでも設置しようとすると幾らお金があっても足りません。一見地味ですが、非常に効果的な方法です。

 


 

いかがでしょうか?

日々の生活においても、知らないうちに皆さんの行動は操られていることがあります。これらの手法をそれぞれの仕事に応用していただくことで、上司も部下も心理的な負担なく、業務品質を上げることが可能になります。

具体的な業務への活かし方については、【後編】で紹介させていただきます。

山尾 修

このコラムの著者:

参謀山尾 修

参謀の特長
大学卒業後、20年以上にわたって電機メーカーにてモノづくりに従事。管理畑を中心に経験を重ね、新興国での海外赴任も経験するなど、モノづくりの上流から下流までを経験。それらの経験を活かして、現在は赤字事業の経営再建に取り組み中。 自らの経験にMBAの経営理論を加え、経営現場をサポートします。